桜の季節 -2-
★☆☆
適当な木の陰を選んでシートを広げた。そろそろお昼ごはんの時間だ。
「あのね、これ、よかったら……」
カバンからランチボックスを取り出す。中には皆の分のおにぎりが入っている。新名くんが声を上げる。
「わ、弁当?」
「うん、おにぎり、だけど……」
「流石! つーか、期待してたし」
そう言って新名くんはわたしの大きすぎるカバンを指さす。でも、それを言うなら……。
「新名くんも何か持ってきたの?」
同じように新名くんの“大きすぎる”カバンを指さす。新名くんが「バレタ?」と悪戯っぽい表情をする。思わず、くすり、と笑顔になってしまう。
「バレバレ、だよ。何が入ってるの?」
「あーーっと、保冷パック入れてきたから、多分大丈夫だと思うんだけど……」
「?」
そう言いながら新名くんが取りだしたのは大きめのタッパーだ。中を開けてみると、
「野菜スティック?」
「そ。ディップもいろいろ持ってきたし」
「あ、前言ってた……」
「そう、それ!」
「ああ、あれか」
嵐くんが新名くんの手元を見て頷く。
「そ、“ドレッシング”みたいなヤツです」
「……野菜を切ったヤツにしか見えねぇ」
「……野菜を切ったヤツですからね、これは。もー、ディップはこっち!」
小ぶりの保存容器を取り出しながら、新名くんが説明する。
「いろいろ持ってきましたから」
「わあ、楽しみ」
「そう言ってもらえると何よりです。リクエストあったにんにくのヤツも持ってきたから、いろいろ試してみてよ」
コロコロと色んな種類のディップが入った容器を取り出す新名くんを見ながら、“新名くんはマメだなあ”とすっかり感心してしまった。
「豪華なお昼だね」
「ま、野菜なんですけどねー」
「俺も持ってきた」
「えっ」
「えっ」
思わず新名くんとわたしは嵐くんの顔を真正面から見詰めてしまった。嵐くんは青い包みに包まれた大きめのお弁当箱のようなものをわたしたちの前に差し出している。
「ま、まさか……嵐さんが作ったんスか?」
「……いや、お袋の弁当」
「なぁんだ……」
新名くんは心なしか安心したように肩を落としている。そっか、お母さんのお弁当、か……。それはそうだよね、嵐くんがお弁当を作る姿は何故か頭に浮かびにくい。……でも、嵐くん作のお弁当……ちょっと食べてみたかったかも。
「花見に行くなら持ってけって朝、渡された」
そう言って嵐くんはお弁当を開けた。
「わあ!」
「すっげー」
中には沢山の唐揚げとタコさんウィンナーが入っていた。タコさんウィンナーは、嵐くんがよく早弁しているお弁当に入っているのを見たことがある。か、かわいい……。
「おいしそう……」
「ああ。お袋の弁当は上手ーぞ」
なんの衒いもなく嵐くんは笑顔で返す。そんな嵐くんの笑顔を見ていたら、きっと作り甲斐があるんだろうなあ、と嵐くんのお母さんが少し羨ましくなってしまった。――って、何考えてるの、わたし……!
「つーか、さあ」
新名くんが指さし確認をするようにランチボックスを指し示す。
「おにぎりでしょ」
「うん」
「で、オレの野菜スティック、ね」
「うんうん」
「極めつけが、嵐さんのお母さん特製・唐揚げにウィンナー詰め合わせ」
「……すごい、お弁当みたい」
みんなてんでバラバラの物を持って来た筈なのに合わせてみたら、まるで一つのお弁当の献立みたいなことになっている。偶然とはいえ、すごいかも。
「息、ぴったりだね」
「だな」
嵐くんから肯定の言葉が返ってきた。……嵐くん、何だか嬉しそう。釣られるように、わたしも嬉しくなってくる。新名くんが「つーか、嵐さんのお母さんがすげぇ。パネェ」と神妙な顔で呟いている。さらさらと風が桜の枝を揺らして、皆で持ち寄ったお弁当にまだらな影を作っていた。何はともあれ、今日の昼食は“息ぴったり”柔道部の献立お弁当だ。
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