フリリク企画 | ナノ
おうちでデート-1-


日曜の昼下がり。
大学のレポートや試験も一段落して、その日は一日フリーだった。特に用事もなかったけれど、天気のよさに誘われるように外へ出ていた。

ショッピングモールをぶらぶらしながら、久々に入った駅前のケーキ屋さんでケーキを物色しているうちに、ひとつの顔が頭をよぎった。――瑛くんもこういうの、好きかな。時計の針はお昼には少し遅い、おやつには少し早い時刻を指している。少し考えて、メールを打ってみた。瑛くんにもケーキのお裾わけしたい、な。

「今から行ってもいい?」と瑛くんにメールを打ってみる。ケーキを箱に詰めてもらっているうちに返信があった。本文じゃなく件名に短く「オッケー」とだけ書かれたメール。「じゃあ、今から行くね」と送り返す。お店を出たところで、また件名部分に「鍵開けとく」とだけ書かれたメールが返ってきた。「すぐ行くね」と返して瑛くんのアパートへ向かった。

大学生になって数ヶ月、こんなやり取りと距離感が何だかとても新鮮で、浮足立って仕方ない。わたしたちは“お付き合い”をしている。卒業式の日に告白をしてくれた瑛くんは、相変わらず照れ屋なところが抜けなくて(本人に言うと否定されてしまうけど、瑛くんは照れ屋さんだと思う)、あまり面と向かってそういうことを言ってくれないけれど。




瑛くんの部屋のチャイムを鳴らす。家を出たときは、瑛くんに会う予定はなかったけど、お洒落してきてよかった。春先にお店で買ったTシャツはフロントに大きなリボンがあしらわれていて可愛らしい。……変じゃないよね、と一人服装チェックをしているうちにドアが開いた。

「瑛くん、こんにち、は……」
「…………おはよう」

言いかけた挨拶が思わず途中で止まってしまった。
ドアを開けてくれた瑛くんは“お疲れモード”だ。ごく控えめに言って、ものすごく、お疲れモードだ。こんなにげっそりしている瑛くんは久々に見たかもしれない。
あんなに普段身なりに気を使う瑛くんなのに、今日はセットしていない髪に黒ぶちメガネ、適当な部屋着……というか、ジャージ姿だ。いかにも「疲れた……」感じの表情から察するに、もしかすると徹夜明けなのかもしれない。

戸口で固まっていたら、お疲れMAXモードの瑛くんから「入らないのかよ?」と訊かれてしまった。お邪魔したいのは山々だけど、こんなに疲れている瑛くんに今一番必要なのは休息な気がする。お土産に持参したケーキよりも。

「い、いいの?」
「何が?」

瑛くんは「入れよ」とだけ言って背中を向けて部屋に引き返してしまった。そのまま玄関先で一人まごまごしていたけど、結局、お言葉に甘えて部屋にお邪魔することにした。

典型的な一人暮らし用のアパートの奥、机の上にはテキストやら辞書、それから、いかにもさっき仕上げました、という風なレポートの完成品と、完成に至るまでの格闘の後もまた生々しく……。
おそるおそる、聞いてみる。

「もしかして、レポート、してた?」
「してた。さっき終わった」

荒れた机の上を整理しながら瑛くんが言う。

「徹夜明け?」
「……まあ、そんな感じ」

大体予想通りの返答。
じゃあ……。

「今日はこれからお休み?」
「……や、夕方からバイト」

うん、もしかしなくとも、一番間の悪い時にお邪魔してしまったのかもしれない。

「わ、わたし、やっぱり帰ろうかな……」

玄関に引き返そうとした背中に瑛くんの「何で?」という声がぶつかる。

「何でって、瑛くん、疲れてるみたいだから……」
「何、気使ってるんだよ。折角来たんだから、いろよ」
「でも……」

まごまごしているうちに瑛くんは机の片付けを終えてしまいそうだった。持参したケーキの箱が目に入る。一緒に食べたくて買ったケーキ……。しばらく行ったことがないお気に入りのケーキ屋さんの……。前に一緒に行ったとき、瑛くんも気に入ってくれてたみたいだった。

「じゃあ、コーヒー淹れるね」

ケーキの箱を掲げて提案する。

「ケーキ、持ってきたから、一緒に食べようよ。ひとやすみしよう」

瑛くんも興味を引かれたようにケーキの箱を覗きこむ。

「駅前の?」
「うん、新作も色々あったよ」
「へえ、今度行ってみるか……」

ぽつり、と呟く瑛くんを見たら、胸に少し罪悪感が湧いた。わたしが買い物をしている間、瑛くんはこの部屋に缶づめでレポートしてたんだよね……。こんなに天気がよくて外出日和だったのに……。
一日フリーだと浮かれていた自分が申し訳なくなる。せめてコーヒーだけでもおいしく淹れたいけど、わたしより、瑛くんが淹れた方が、まず間違いなくおいしい、という残念具合だ。自分に出来ることが少なすぎて、悲しくなってくる。



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