夏のこどもたち-2-
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水着に着替えて、元の待ち合わせ場所へ向かう。
水着は今年新調したもので、ピンクに白抜きの水玉模様柄。ビキニタイプの水着だけど、スカートみたいなフリルがたっぷりついていてかわいい。
親友の西本さんに付き合ってもらって、たくさん意見を聞きながら選んだ水着。かわいいデザインだけど、少し露出が多いかな。それにビキニということもあってお腹周りが全然隠れないから、ちょっと恥かしいかも……。
お腹周りが心もとない気がしながら待ち合わせの場所に向かうと、遠くに佐伯くんの姿が見えた。いけない、待たせちゃったかな。小走りに走り寄って、佐伯くんの背中に声をかけた。
「ごめんね、待った?」
「いや、別に…………」
振り返りざま言いかけて、そのまま佐伯くんは固まってしまった。まじまじと見つめられて居たたまれない、というか、恥かしい、かも。何せ、今日はいつもと違う格好、水着だったもので。
「……佐伯くん?」
どうかしたのかな、と小首を傾げて見上げてみると、佐伯くんはハッとしたように何度か瞬きを繰り返してみせた。何だかイタズラを見つかった小さな子みたいな、バツの悪そうな表情だった。
「や! 別に、何も! 何も変なことなんか考えてないから……!」
焦ったようにまくしたてる佐伯くんに、わたしはまた首を傾げてしまう。
「“変なこと”って?」
訊ねてみると、佐伯くんは“しまった!”という顔をして口をつぐんでしまった。
佐伯くん、どうしたんだろう? 何だか顔が赤いような気がする。もしかして、すごく暑いのかな?
「あっ」
そこでハッと気付いた。
――ま、まさか、佐伯くん……
つま先立ちして手を伸ばして、手のひらを佐伯くんの額にぴたりとくっつけた。
「熱があるの?」
「えっ?」
佐伯くんは目を大きく見開いてわたしを見つめたのち、大慌てで体を後退させた。
「ば、バカ! おまえ、何やって……!」
しどろもどろ、という風にうろたえる佐伯くんの額を追いかけて言葉を続けた。
「だって佐伯くん、すごく顔が赤いよ。もしかして、熱があるんじゃないの?」
もう一度、佐伯くんの額に手のひらを押し当てる。今度はもう片方の手のひらを自分の額に当てて熱を比べてみる。
空からは容赦ない日差しが降り注いでいて、佐伯くんとわたしの肌をじりじりと灼いていた。肌を刺すような強い日射しのせいか、佐伯くんの額は顔色の割にそれほど熱く感じられなかった。
「……熱なんか、ないから」
目のやり場に困ったように視線を彷徨わせながら、佐伯くんはわたしの手を退けさせた。佐伯くんの手のひらは大きいから、わたしの手首を掴むと指が随分と余ってしまう。日焼け止めを塗った肌越しに佐伯くんの手のひらの温度を感じた。おかしなことに、さっき触れた額よりも、手のひらの方がよほど熱い気がした。
手首を掴まれていたのは、ほんの一瞬の間だった。手を離すと、佐伯くんがぼそり、と何か言った。
「――――」
「……え?」
聞き返すと、佐伯くんは酷くバツの悪そうな顔をして顔を背けた。
「……何でもない」
どうしたんだろう。何でもないようには、見えないんだけど、な。
そうして佐伯くんは誤魔化すように別のことを言う。
「子どもか、おまえは、って言っただけ」
「子どもじゃないもん」
条件反射みたいに口答えをすると、佐伯くんはムッとして言葉に詰まったように黙り込んでしまった。
「…………分かってるよ」
佐伯くんは時々、こんな風に複雑な顔をして口ごもってしまう。そういうときの佐伯くんはとても言葉少なになってしまうから、わたしは佐伯くんの気持ちがはかれなくて、困ってしまう。
――……変な佐伯くん。
それにしても、本当に暑い。
降り注ぐ日差しが、じりじりと頭を焼く。砂に落ちた影が濃い。
暑いのも、変に体に熱がこもってしまうのも、きっと夏のせいだ。もう一度、さっき掴まれた手首を所在なげに撫でてしまう。暑いせいか、汗ばんでいた。
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