フリリク企画 | ナノ
桜の季節 -1-


パソコンで「はばたきネット」をチェックしながら、ふと、目についた文字があった。

“桜”
“お花見”

――そうだ、もう、そんな季節なんだ……。

翌日、放課後の練習が終わる頃に口に出してみた。

「みんなでお花見しない?」

「あー、いいですねぇ」とすぐさま反応をくれたのは新名くんだ。練習後の疲れた表情が吹き飛んで、パッと明るい笑顔だ。

「きっと今週末とか、見頃なんじゃねーの?」
「ほんと? 新名くんは日曜日、大丈夫?」
「オッケーでーす」

――よかった。とんとん拍子に話が決まっていく。実を言うと、持ち出すまで少し不安だった。

そこで視線を横方向にずらした。嵐くんは首元の汗を真っ青なスポーツタオルで拭いながら、わたしたちの方を見つめていた。新名くんとわたしのやり取りも聞いていたのかな? 

――どうかな? と聞こうとして、軽く首を傾げかけたら嵐くんが口角を上げた。そうして頷くようにして言ってくれた。

「いいな、花見」

途端に胸につかえていたものがなくなったような気がした。

「よかった! それじゃあ……」
「日曜は三人で宴会にけってーい!」

引き継ぐように新名くんが声を上げる。嵐くんが仕方なさそうな顔で笑う。

「花見、だろ。あと、気が早ぇぞ、新名」
「だって楽しみじゃないスか。嵐さんは違うんスか?」
「違わねーよ」

声に笑いの余韻を残したまま嵐くんが言った。たった一言だけど、とても嬉しくて箒を握る手に力がこもった。箒を体に引き寄せる。

――よかった。今年の春は、みんなで、三人でお花見が出来るんだ。

高校生活最後の春。3年目の春だった。


☆☆★


桜は満開だった。
森林公園の木々が淡い桜色に染まっている。空と桜の花びらのコントラストが、とても綺麗。空を仰ぎながら、透ける桜の花びらに見とれて歩いていたら、右隣りからため息が降ってきた。新名くんの声だ。

「すげぇ……桜のトンネルみてぇ」

本当にその通りだと思う。まるでトンネルみたいに桜が空をみっしりと埋めている。
思わず「きれいだな……」と呟いていた。するともう反対側、左側から「うん」と返事があった。

「ため息が出る」

声につられるようにして見上げると、嵐くんは真っ直ぐな目で桜を仰いでいた。一瞬、空と桜と嵐くんに見とれて、それこそため息が出そうになってしまった。慌ててため息を飲み込む。指先で頬を叩くわたしを不審に思ったのか、嵐くんが「どうした?」と聞いてきた。

「な、なんでもない」
「? そうか?」

右隣から口笛が聞こえた。見ると、新名くんがしたり顔でニコニコしている。も、もう……! 目で抗議すると、分かってます、分かってます、というように片目を瞑られた。分かっているのなら、からかわないでほしいと思う。自称“伝説のナンパ師”であるところの新名くんは何もかもお見通しなのだ。

今日だって、「嵐さんと二人きりじゃなくていいの?」なんて、要らない気を回された。二人きりもいいけど、お花見は三人の方がいい。だって、桜の季節は短いから。それに桜には特別な思い入れがあるから。そのことは新名くんにも、嵐くんにも話していなかったけれど……。

三人でお花見に行くことが決まった日の放課後、したり顔で“任せといて下さいね!”と胸を叩いていた新名くんを思いだして、飲み込んだため息がぶり返してきた。去年の秋のアドバイスを思い起こしまったせいだ。

あのときは何とか丸くおさまったものの、新名くんの善意のアドバイスのおかげで大変恥かしい思いをした。――新名くん、今回は一体どんな助け舟を出してくれるつもりでいるのだろう……。


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