フリリク企画 | ナノ
春の約束 -4-


こっちの内心には全然頓着してないようなあかりの明るい声が聞こえてきた。

「うん、どうぞ」

そう言って、ぽんぽん、と自分の腿の辺りを軽く叩く。こっちからすれば、棚からぼた餅、あるいは願ったり叶ったりな申し出なのに、あかりは何だか嬉しそうに笑っていた。照れくさくて口に出して言いたくはないけど、かわいいと思わなくもない。

「じゃあ、お願いします……」
「うん、どうぞ」

さっきと同じ返事を聞いて、ぎこちなく膝に頭をのせた。横向きに頭をのせると、目の前にあかりの剥き出しの膝頭が見えて、ひどく目に毒だった。あかりが「どう?」と聞いてくる。いや、どうって、おまえ……。

「……気持ちいいよ」
「そっか」

納得するみたいにあかりが頷く気配がした。次いで、「よかった」という声が耳に聞こえた。横向きに寝ていると、そういえば、顔が見えない。体の向きを変えて仰向けになった。澄んだ明るい空と、日に透ける桜の花を背景にしたあかりの顔が見えた。輪郭が日の光に照らされて眩しく光っていた。――綺麗だな、と思った。実際に口に出していた。

「綺麗、だな」
「うん、綺麗だね」

顔を上げて、頭上の桜を仰ぎながら、あかりは言った。100パーセント勘違いしていると思う。普段は照れくさいから言いたくないし、知られたくないのに、勘違いされるとムッとするんだから、不思議だ。腕を伸ばしてあかりの頬に触れた。さっき、団子を食べているのを見た時、触れてみたいと思った頬だ。「瑛くん?」あかりが驚いたように名前を呼んだ。そのまま頬を摘まんで軽く引っ張ってみた。……やっぱり、餅みたいに柔らかかった。

「い、いひゃいよ!」
「ウルサイ。おまえが勘違いしてるからだ」
「か、かんちがひって?」

頬を摘まんだまま、「耳、貸して」と言った。あかりは涙目に抗議の色を混ぜたまま、素直に耳を傾けてきた。左耳に髪をかけて、よく聞こうと耳を澄ませている。白い耳に顔を寄せて囁いた。

「おまえのこと、だよ」
「え?」
「……桜じゃなくて」

説明というには、あまり親切な説明じゃなかった。通じるか分からなかった。でも、これが精いっぱいだった。そうして、普段、髪に隠れている耳が真っ赤に染まっていた。顔を見ると、耳と同じくらいに顔を染めていた。口にはやっぱり出さないけど、かわいいな、と思った。同じくらい、降りしきる桜と澄んだ空を背にした姿を、改めて綺麗だと思った。



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