フリリク企画 | ナノ
春の約束 -2-






「お団子、おいしいなあ」

ピンクに緑、白。三色団子をほお張りながらあかりが言う。片方の頬が団子の形に丸く膨らんでいて、まるで、木の実を口に詰めこんだリスみたいだ。桜の木のふもとに並んで座りながら、ため息をついた。

「……やっぱり花より団子じゃん」
「そ、そんなことないもん!」

慌てたような調子で言い返される。さっきとそっくり同じやり取りだと思った。
唇を尖らせて、どこかむくれた子どもを彷彿とさせるような顔であかりは三つめの団子に取り掛かった。串を横にして白い団子にかじりつく。柔らかそうな餅だ。引き伸ばしてもなかなかちぎれない。あかりの頬もまるで餅みたいに柔らかそうだと思う。……共食いの現場を目撃したような気分。

何とも言えない気分であかりの頬を見つめていたら、視線に気づいたのか、黒目がちな目がこっちを見返してきた。そうして、何かに気づいたように「あ、ごめんね」という。視線が合った途端、考えていたことを見透かされたような気分になってバツが悪くなった俺には、あかりが謝る理由が分からない。あかりはパックに入ったもう一つの花見団子を差し出して言った。

「瑛くんもお団子、食べる?」

あかりの顔と差し出された団子を見つめる。天然ボンヤリは屈託なく笑っていて、パックの中には手つかずのままの花見団子が行儀よくおさまっている。さっきまで頭の中を占めていた、絶対に口に出したくない考えはボンヤリにはバレていないらしい。

「いいよ」
「でも、瑛くん、じーっとこっちを見てたから……」

――だから、もしかして、お団子食べたのかなあって思ったんだけど。

心持、小首を傾げながらそんなことを言う。
ボンヤリなのに、時々鋭い。けど、予想の方向がてんで見当違いだ。……いや、あながち見当違いって訳じゃないかもしれないけど……。
また思考が妙な方向に引っ張られそうになって、誤魔化すように言った。

「別に食べたかったわけじゃない」
「そう?」

あかりは納得しかねるように首を傾げている。そのまま気付くなよ、と思う。
ふと、何か良いことを思いついた、というようにあかりが楽しげに口角を上げた。黒目がちな目がイタズラを思いついた子どもみたいに輝いている。控えめに考えても、碌でもない予感しかしない。あかりの細い指がパックの中の団子を摘まんだ。そうして掲げ持って、

「はい、あーん」

屈託のない笑顔つきで団子を差し出してきた。
しばらく固まっていたら、“食べないの?”という風にあかりは小首を傾げた。明るい茶色の髪がさらさらと肩口で揺れる。上目づかいの黒目がちな目がもの問いたげに揺れる。
……頼むからそういう仕草や態度はやめてほしいと思う。人がいないところならいざしらず、こんな、花見客がいっぱいの公衆の面前では、ホント、やめてほしいと思う。

「食べない。いらない。やらない。そんな、バカップルみたいなこと」
「……そう?」
「いいから、おまえ食べろよ」

言って、あかりから顔を背けた。風が花の生い茂った枝を揺らしていた。視界を遮るように花びらが目の前やら、あかりとの間を舞う。

心持、しおれた様子であかりがパックから花見団子を取りだす気配が背けた横顔越しに伝わった。日差しはやたらと良くて、天気だけを見ると、昼寝日和に思えた。




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