フリリク企画 | ナノ
春の約束 -1-


行きたい場所はどこだって訊いてみたら、二つ返事で行きたい場所を打ち明けられた。
異論はなかったから、じゃあ、今度の休みに二人で出かけようって話になった。
高校を卒業して以来初めての、その……もっと言えば付き合うことになってから初めての、あかり曰く“デート”ってヤツだった。何かと身辺整理が慌ただしかった、春休みも終わりかけの週末の電話で交わした約束だ。

「それじゃあ、来週の日曜日、公園前で待ち合わせ、だね」

あかりは高校生の頃みたいな調子で言って電話を切った。声だけを聞いていたら、まるでブランクなんかなかったみたいに感じてしまいそうになったけど、二人きりでどこかへ出かけるのは随分久しぶりだった。どこかむず痒いような、くすぐったいような気分で電話を切った。――随分前に、それこそ、一年も前に交わした約束とも言えない口約束。……あかりは、まだ覚えているかな。




桜の季節。公園の桜は、俺たちが卒業する春にもやっぱり咲いていた。

「わぁ、綺麗!」

満開の桜を仰いであかりは声を上げた。その意見に異論はなかったから、隣りを歩きながら頷いた。

「ああ、綺麗だな」

ひらひらと舞い落ちる花びらを目で追いながら、あかりがふと足を止める。

「あ」

公園の一角を指さして言う。釣られたように指の先を視線で追う。通りに沿うように露店が並んでいた。

「花見団子、買いたいな」

ぽつりとつぶやくように言う茶色い頭のつむじ辺りを見つめる。ダメだ、ため息を抑えられない。

「花より団子…………」
「そ、そんなことないもん!」
「そんなことあるだろ。おまえなあ……花に見惚れてたの、結局一瞬じゃん」
「そんなことないもんっ。と、とにかく、買ってくるから、瑛くんは待ってて」
「あ、おい……!」

言うが早いか、あかりはもう駆けだしている。途中で立ち止まって、くるりと振り返る。

「座る場所の確保、お願いねー!」

言うだけ言って、また踵を軸にターン。白い足を蹴りあげて駆けていく。花柄のフレア・スカートの裾がひらひらと揺れる。――ああもう、転ぶなよ……と心配になった。走るのに向いた靴を履いてる訳でもないのに、あいつと来たら、全然気にしないであんな風に駆けだしたりする。

そんな姿を見ると、相変わらずだと思ってしまう。相変わらず、あかりはあかり、だ。花柄のスカートも、ブラウスも見覚えのある服だった。けど、どっちも桜の花に合わせたような淡い色をしていた。そもそも春服を見るのだって、もう一年ぶりだ。

そうして、ふわふわのひらひらな服を着ているのに、飛んだり跳ねたり、果ては、駆けだしたり、案外と活発な生き物だったりする。相変わらずのあかり。

もう一度、息をついて適当な木の下を探す。辺りは花見客でいっぱいだ。あまり人目につかないような、落ち着くことが出来そうな場所を探す。

見つけた木の下に立って、あかりが並ぶ露店に目を向けると、列に並んだあかりがやけにうれしそうに手を振って寄越す。……ああもう、悪目立ちするから、やめてほしいと思う。

それでも振り返さない限り、あのボンヤリはやめないだろうから、軽く手を振り返した。ひらひらと舞う花びら越しに、あかりがやたらとうれしそうにひらひらと手を振り返す。



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