※卒業後のイチャラブと思って下さい。 ※※状況的にRですが非常にぬるいし寸止めです。 ※※※それでもオーケーな方のみご閲覧ください。 淡い小花柄のワンピース。薄いなめらかな生地の上に愛らしく花が散っていて、その服はあかりの雰囲気によく合っている。よく似合っていて、好きな感じの服だけど、今ばかりは厄介に思う。 「瑛くん、どうしたの?」 向き合って、あかりが問いかけてくる。あかりの頬は上気して、ほんのりと赤い。心なしか目も熱っぽくうるんでいるような……別に風邪を引いているということはないと思う。それまでしていたことのせいだ。 どうしたの、と訊かれて、さて、どう答えたものかな、と固まってしまう。正直に打ち明けるのは何だか格好がつかなくて、したくない。かといって無理を通すのも気が引ける。目の前の服は見た目の印象通り、可憐で繊細そうだったので。無理を通したら、それこそ破いてしまいそう。 「……ごめん」 「えっ」 結局、正直に言うことにした。恥かしくてバツが悪くて、相手の顔を見られない。 「この服の構造が全く分からない」 かわいい見た目の小花柄のワンピースは、脱がせるとなったら、ひどく厄介な代物だった。首元のリボンも、胸元の小さなボタンも、かわいいけど、かわいいから、手を出すのに抵抗がある。それでなくても、服を脱がすなんて作業は初めてだったから、ハードルが高いのに。その上、脱がし方が分からないなんて、もう、お手上げだった。 「その、だから……脱がせられなくて……」 ぼそぼそと打ち明けたら、あかりが向かいで笑う気配がした。 「……瑛くんのエッチ」 「わ、悪いか! 男は誰でも多かれ少なかれ、そうなんだよ!」 あまり指摘されたくない、痛いところを突かれて思わず声を上げていた。あかりが少し後ろの方へのけ反るように肩をすくませたのを見て、ハッと我に返った。かっこ悪すぎる。バツが悪くなって大きな声を上げてる、とか。 「……ごめん。あのさ……」 「なに?」 「イヤか?」 ちゃんと向き合ってあかりの目を見て訊く。 「イヤなら、無理強いはしない。やめるけど……」 ここまで来てやめるのは残念だけど。残念すぎるけど、やっぱり、無理強いはしたくない。 あかりは、ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返してから、頭を振った。 「ううん、いやじゃないよ」 そうして少し笑って付け加える。 「……ちょっと、こわいけど」 黒目がちな目が悪戯っぽく輝く。けど、冗談っぽく言って見せているけど、『こわい』というのも本当だと思う。長く一緒にいるにつれ、そこら辺の機微は分かってきた。手を伸ばしてあかりの髪を撫でた。なるべく優しく。労わるように。気持ちが伝わるように。 「なるべく、ゆっくりするから」 「瑛くん…………」 「その、痛くないように……ってのは、さすがに無理かもしれないけど、なるべく優しくするから」 言いながら、だんだん恥かしくなってきて、後半はほとんど消え入りそうだった。髪をなでられながら、あかりがくすくすと笑う気配がした。恥かしくて顔を見れないでいたのに、こいつと来たら……。 「おま、笑うなよ! 人が真剣に……」 「分かってる」 相変わらず、くすくす笑いながら、「分かってるよ」と言って、あかりが抱きついてきた。胸に頬をすり寄せるようにしながら、囁かれた。 「優しくしてね。ゆっくりしてね。あんまり、痛くしないでね」 「う、うん……」 抱きつかれて、思わず硬直してたけど、おそるおそる、あかりの背中に腕を回した。回した腕が随分余った。そんな事実から、こんなに小さいんだ、と実感してしまう。大切にしなきゃ、と思う。大切にしたい。そっと、回した腕に力を込めて、抱きしめた。あかりのつむじに鼻先を埋めて息をつく。 「えっ……と、痛くしたら、ごめん」 「痛いのはヤダなあ……」 腕の中であかりのくぐもった声が聞こえる。頭に埋めていた顔を離す。弱り切って、あかりの顔を覗き込むようにして訊く。 「やっぱ、やめる?」 「…………ううん」 胸に顔を埋めながらあかりは頭を振った。あかりの頬に手を添える。手に促される様にあかりが顔を上げた。黒目がちな目が熱っぽくうるんでいる。そこに一つの感情を見てとって、途端に嬉しくなる。……たぶん、自惚れじゃない、とは思う。 見つめ合って、顔を寄せる。あかりが瞼を伏せる。頬に睫毛の影が落ちる。頭がくらくらする。目がくらむ。触れ合った部分がやわらかい。 離れがたい思いで顔を離した。しばらく沈黙して、改めて、あかりの服に視線を移した。 「ごめん。服の構造が分からなくて……」 あかりがくすくすと笑う。笑いながら、言った。 「脱がし方、教えてあげる」 笑顔の屈託のなさにくらべ、言われた内容はなかなかとんでもない。思わず心臓が跳ねた。ぼうっとしていたら、手を掴まれて誘導された。小さくて白い手。桜貝のような爪の艶やかさに目を奪われる。 「まずは、首元のリボンをはずします」 「あ、ああ、うん」 「間違えて、首を締めないでね」 「しないし、そんなヘマ」 「次は胸元のボタンね」 「小さいボタンだな……」 「そう小さいんです。しかも上半分は飾りボタンだよ」 「えっ、そうなのか!?」 じゃあ、一体どうやって外したら……というか、どうやって脱がしたらいいんだと頭を抱えてしまう。こっちの葛藤は余所に、あかりは、くるり、と背中を向けた。まさか、やっぱりやめる、とか言いだすんじゃないかと内心焦った。 「ちょ、おい……!」 「背中にね、ファスナーがあるの」 「…………ああ、ファスナー。ファスナーね、なるほど……」 「瑛くん、どうかした?」 「いや、何でも……」 「?」 肩越しにあかりは不思議そうに小首を傾げて寄越す。それから、短めな髪をかきあげて、言った。 「ごめんね、瑛くん。背中のファスナー、一人だと外せないから、外してもらっても良い?」 「うなじ……」 「瑛くん?」 「あ! ああ! ファスナーな? 分かった」 やばい。思わずうなじに見惚れたとか、言えないし。普段隠れた部分とか、威力が半端ないと思う。 背中の小さな金具に手をかける。 「じゃあ……失礼します」 「何で敬語なのー?」 「いや、何となく……」 「変なの」 くすくす、とあかりは屈託なく笑っている。人の気も知らないで、こいつ……と思わなくもない。 ……ちょっと待て。 ファスナーを下ろしながら、ふと、気にかかった。実際に口に出して言う。 「ちょっと待て」 「ん? なあに?」 「この背中のファスナー、一人じゃ外せないんだよな?」 「うん、そうだね」 あかりは屈託なく頷きを返してくる。 「え、じゃあ、誰に手伝ってもらってるんだよ?」 「え、お母さんとかだよ」 「ふうん、そっか」 そっか、お母さんか……。ま、そうだよな。それが妥当っていうか……。 「あと、お母さんがいないときは、遊くんにお願いするときもあるかな」 「……ちょっと待て」 「ん、なに?」 「遊くんって、確かお隣の……」 「うん、そう。お隣の遊くん」 「バカ!」 「きゃっ」 渾身の力で声を上げたら、あかりが肩をすくませた。 「おま、他の男にそんなことさせるなよな……!」 「お、男って、遊くんは中学生だよ!? 最近までまだ小学生だったし……」 「バカ! こういうのは、年は関係ないんだよ! 幾らガキでも、男は男なんだから!」 「もう、さっきから、人のこと、バカバカってひどいよ!」 「ひどいのは、おまえだろ! ああもう……」 説得しようとしてるのに、全然見当違いの方向で頬を膨らませているボンヤリに、頭を抱えてしまった。 本当に頭を抱えて俯いていたら、衣擦れの音がした。あかりの膝が見える。振り返って、こっち側に体の向きを変えたらしい。 「ね、瑛くん」 「……何だよ。この鈍感天然ボンヤリ」 「さっき、幾ら子供でも、って瑛くん言ったよね」 「それが何だよ」 「瑛くんも、そうだったの?」 顔を上げる。黒目がちな目が上目づかいに見上げていた。割と真剣な表情。ふざけても、茶化しているようにも見えない。 「あのとき、一番最初に出会った時も、そうだったの?」 あのとき、というのが、いつのことを指しているのか、ちゃんと分かった。珊瑚礁の前で出会い直したときとは違う。それよりもずっと前、まだお互いが子供だった頃の話。一番最初の話。 あの日の夕日の明るさをまだ憶えている。あの日、憶えた感情も。 しばらくの間、あかりの顔を見つめてから、視線を逸らした。 「……そうだって言ったら、引く?」 ふっ、と息をつく気配がした。 「ううん!」 そのまま、ぎゅっと抱きつかれた。 「引かないよ、うれしい」 「ば、バカ……」 うろたえて、声が上ずってしまう。しばらく手のやり場に困って、結局、また背中に回した。あかりが笑顔で見上げてくる。軽く首を傾げながら訊いてきた。 「服、脱がせてくれないの?」 ああ、もう……。こいつって確信犯なのかな。そうだとしたら、相当だと思う。けれど、ボンヤリなこいつに、そんな芸当が出来るとは思えないし、思いたくない。 「……いいけど、ただし、一個、条件がある」 「なに?」 「俺以外の男には服に触らせないこと。ファスナーを下ろすなんて、言語道断な」 「……瑛くんのヤキモチ焼きさん」 「あ、当たり前だろ! 普通、自分の彼女にそんなこと、許さないだろ……!」 声を上げたら、あかりは面白そうに、けらけらと笑っている。こいつ……。 「うん、分かったよ。これからは気をつけるね」 思いのほか、素直な返答。諸々の言いたいことを辛うじて飲みこんで、頷いた。 「…………なら、よし」 あかりはもう一度後ろを向いて「じゃあ、お願いします」と背中を向けてくる。小っぽけなファスナーに手をかけながら、本当に分かってるのかな、このボンヤリは……とまだ少し心配だった。ファスナーから覗く白いなめらかな背中が扇情的で、ひどく厄介。ほとんど懇願するような思いで白い肌にキスしたら、やけに甘ったるい声が耳をくすぐった。ああ……。ほんと、厄介だな、って思う。厄介だけど、やめたいとは思わないし、もちろん、手放したくなんかない。ほんと、どうしようもない話だと思うけどさ。 2011.10.28 *粘りましたが、結局寸止めエンドでしたズコーッ! **状況の割にぬるいし、鼻で笑っちゃう感じのero状況でごめんなさいごめんなさい。僕の限界でした……でもこんな感じで、末永くイチャイチャすればいいじゃないの、と思います。切に願います。 <-- --> |