07.ゴミ箱



「一位おめでとう。やったな!」
「うん!」
「おまえ、輝いてたぞ。ゴールするときの顔」
「えへへ」
「ま、アンパンくわえてたけどな」
「うん、そうだね。あ、そうだ。半分いる?」
「………………」
「いらない?」
「……いや、いらないかって聞かれるとさ……困るっていうか……」
「?」
「それ、一応、一位の景品みたいなもんだろ」
「そうかな?」
「しかも、おまえがくわえてたヤツだし……」
「うん、だから、半分しかあげられないんだけど」
「いや、それはいいんだけど……」
「だけど?」
「つーか、おまえ、それ落としてたじゃん」
「うん、そうだね」
「そうだね、じゃないだろ!」
「痛っ」
「おまえというヤツは! 落っことして砂まみれになったアンパンを平気で人に渡すのか? おとーさん、そんな子に育てた覚えはないぞ!」
「育てられた覚えもないもん……」
「何か言ったか?」
「ううん、何も」
「よろしい。……それより、おまえ、平気なのか?」
「何が?」
「さっき、落としたアンパンくわえて走ってるとき、滅茶苦茶イヤそうな顔してただろ」
「うん、口の中、じゃりじゃりするよ」
「バカ! ここで呑気に喋ってる場合じゃないだろ! 早く口ゆすいで来い!」
「うん、そうするね」
「全く……」
「それじゃ、瑛くん、またね」
「………………あかり」
「ん、何?」
「……おまえさ、そのアンパン、まさか他の誰かに渡すつもりじゃないだろうな」
「? どうしてそんなこと聞くの?」
「いや、おまえ、ウッカリしてるし、平気で別のヤツに横流ししそうだからさ」
「しないよ、そんなこと!」
「なるほど」
「そうだよ」
「でも、俺にはする訳な?」
「瑛くんは特別だもん」
「……………………落としたアンパン渡すののどこが特別なんだ? え? 海野?」
「痛い痛い痛い! 瑛くん、ほっぺ、取れちゃう! ほっぺ!」
「アンパンがおいしすぎて、落ちそうなんだな、よかったな」
「瑛くんがつねってるからだよぉ!」
「おまえ、やっぱ、俺のことディズポーザーか何かだと思ってるんだろ。あんなアンパン渡そうとしてさ」
「ディスポーザーって何?」
「生ごみ処理機のことだよ、このボンヤリ」
「違うよ!」
「何が違うんだよ、ボンヤリの小動物」
「わたしはただ……アンパンでも何でも、何か大事なものは全部瑛くんにあげたいって思うんだよ。そういうことなんだよ」
「…………………………」
「でも、落としちゃったし、砂まみれだから、これはゴミ箱行きだね……」
「あかり」
「何?」
「……やっぱ、それ、半分ほしい」
「えっ、でも……」
「いや、食べないけどさ! さすがに!」
「瑛くん……」
「ま、気持ちだけな? 有り難くもらっとく。せっかくだし」
「うん! はい、半分こ、だよ」
「ああ、うん。サンキュ」





2011.10.21
*果たしてラブいのかどうか分からんクオリティ。
*こんなやり取りをしつつ、アンパンはそっとゴミ箱行き何じゃないかしらと思うのでした……(台無し)
*上の二人のやり取りを見かけた針谷くん辺りがあとで冷やかしにいくと思います。でないと突っ込みが不在すぎる。
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