「……大体さあ!」


声を上げたら、あかりはきょとんとした顔で見上げてきた。「えっ?」って、いつもみたいにすっとぼけた反応つきで。「えっ」じゃないよ、本当に。


「おまえ、付き合うっていう意味分かってるのか? おままごとじゃないんだぞ? それなりの覚悟とか、あるんだろーな?」


牽制するつもりで、言うとあかりは笑顔のまま頷いて来た。何だ、そのすんなりした反応……。


「うん。だからね、付き合うって言っても本当じゃないの」
「………………は?」
「要は仮の姿でね、周りのみんなが信じてくれたらいいっていうか……」
「つまり、あれか」
「うん?」
「形だけ付き合ってるっていう風に見せかけるっていう……」
「そう、それ! 流石、佐伯くん、鋭い!」


あかりは全く無邪気に手を叩いて頷いている。そうか、ああそう、そういう……。


「痛っ! な、なんで、チョップするの!?」
「なんででもだ! なんだよ、もう……」
「? 佐伯くん?」


おなじみのきょとんとした目で俺を見上げるあかりには分かるまい。俺の複雑な心境なんか。ああ、そうかよ。付き合うって、本当に付き合うって話じゃないのか、そうなのか……それはそうだよな、幾らこいつでもそこまでボケてないというか、ぶっとんでないというか……。内心、がっかりしてるのは、何でだ。


「……やっぱり、気に食わない」
「え?」
「おまえなんかに、周りを騙せる演技力があるとは思えないって話」
「そんなことないよ!」
「よく言うよ。百歩譲って、俺がおまえの計画に乗ったとする。俺はそういう演技には慣れてるから、それはもう完璧に自分の役割をこなすだろーよ。で、問題はおまえだ」
「な、なによ……」
「折角、俺が完璧に演じても、おまえがヘマしてボロが出るようじゃ困るって言ってるんだ」
「ヘマなんかしないんだから! 完璧にやる!」
「ほお? 完璧に、付き合う二人を演じるって?」
「もちろん! 非の打ちどころのないラブラブなカップルになりきってやるんだから! 佐伯くんこそ、わたしの演技に怖気づいて失敗したりしないでよね!」
「なんだと!? いいだろう、受けて立ってやる!」
「こっちのセリフだよ! 首洗って待ってなさい!」


……バカだった。あいつもだけど、俺も。何、やっすい啖呵に乗ってるんだ……。
売り言葉に買い言葉。
そんな風にして、バカな計画に乗ってしまった。本当にバカだと思う。


それが昨日の帰りの話。
以上、回想終わり――、


そうして、今、こんな状況になっている。
あかりが「一緒に帰ろう」と言って、その誘いに俺が「そうだね、帰ろう」と返すという……しかも、取り巻きの女子の目の前で。



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