いたたまれない気分であかりから顔を背けていたら、鼻をすする音が聞こえた。嫌な予感がする。おそるおそるあかりに視線を戻すと案の定だった。泣いてる。


「ちょ、おま、なんで……」


途中まで言って、“なんで”ってことは無いかと思い直した。そうだ、俺があんなことをしたから泣いているんだ。


「……ごめん」


罪悪感が湧いて謝った。迂闊過ぎるあかりに腹が立ったのは事実だけど、いくら何でも荒療治過ぎたかもしれない。
顔を俯けたあかりがふるふると首を振る。


「ち、違う、もん」


ぐすぐすと鼻をすすりながらあかりが言う。声が涙声だ。泣いているのだから当たり前だけど。


「わたし、そういうつもりじゃなくて……」


それは分かってる。“そのつもり”がなかったことなんて。


「……分かってるよ」
「違う」


あかりが頭を振った。瞳からまた透明な雫がこぼれ落ちる。頬をすべる涙が夕日を受けてきらきらと輝いていて、それを綺麗だと思ってしまった。流石に場違いなことを考えているというのは自覚している。だけど、記憶が刺激されて胸の奥が少し痛んだ。指先で涙を拭ってあかりが続ける。


「そうじゃなくて……」


さっきから同じことを繰り返している気がする。


「違うって何が?」
「わたし…………」


目に涙を浮かべたままあかりが顔を上げた。正面から黒目がちな瞳と視線が合った。



「はーーーい、お疲れ様でしたぁーーー!」



外側から扉を開けられて、その上、明る過ぎる係員さんの声が響いた。強制的に現実に引き戻された気分だった。

開け放たれたドアの向こうから、陽気な音楽とアトラクションを楽しんでるだろう客たちの和気藹々とした様子が伝わってくる。たった一枚のドアを挟んでいるだけなのに、向かい側で目に涙を浮かべているあかりと、それを宥めることも出来なかった俺にはほど遠い世界に思えた。


「……出よう」
「……うん」


ドアを開けたままの係員さんの笑顔が“ヤバイ、修羅場?”みたいに強ばっているように見えたけど、見ないフリをして降りた。


日が暮れかけていて、パーク内が橙色に染まっていた。ナイトパレードのない時期だから、そろそろ出口のアーケードをくぐっていく客も多い。流されるように俺たちも並んだまま出口に向かって歩いていた。


「……佐伯くん」


小さな声で呼ばれた。あかりはもう涙を流してはいなかったけど、まだ目尻は赤いままだった。


「少し、寄り道しない?」


黒目がちな目が見上げてくる。――寄り道。あかりの言葉を反芻する。そうだな、


「ああ、いいよ」


さっきの続きが聞きたいし、何より、話しておきたいこともあるし。


「あそこ行こう」
「あそこって?」
「浜」


この時間、この時期なら人通りも少ないと思う。少し、いや、かなり風が冷たいだろうけど。
うん、と頷いたあかりの顔がようやく緊張がほどけたように何故か見えた。



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