カーテン越しにも空が白んでいるのが分かる。……もう朝だ。布団の中でため息をつく。ゆうべはいつも通りの時間にベッドに入り込んだのに、全然眠れなかった。

佐伯くんから言われた言葉が頭から離れない。

『迷惑だ』

ぎゅ、と目を瞑る。言われた瞬間、目の前が暗くなった。うるさい、とか、そういう類の台詞は普段からよく言われていたけど……昨日の台詞は、いつものものとは種類が違っていた。本当に拒絶されてしまった気がした。

一週間の約束。うまくいけばいい、と思った。これで佐伯くんが抱える苦労を軽減出来たら、って。
でも、迷惑だって言われてしまった。
それはそうかもしれない。月曜以来、佐伯くんはずっと乗り気ではなかったみたいだし……。わたしばかり空回りしていた気がする。それで……それは事実なんだろうと思う。

やっぱり間違いだったのかな。

寝返りを打つ。夜明けの薄明かりの中、ヌイグルミが目に入った。茶色いかたまり。カピバラのヌイグルミ。誕生日に佐伯くんがプレゼントしてくれたものだ。
腕を伸ばしてヌイグルミを掴む。引き寄せて、鼻先を突き合わせる。とぼけた顔。何だか、のほほん、として……うん、かわいいと言えなくもない、かも。

『いーだろ、こいつ?』

そのままヌイグルミの顔を見つめていたら、二日前の放課後のことを思い出してしまっていた。珊瑚礁が定休日で、佐伯くんと放課後を一緒に過ごした。どこか誇らしげにカピバラのヌイグルミを差し出してきた佐伯くんの顔……一昨日は、あんな風に過ごせたのに、どうして、昨日になって、あんな風になってしまったんだろう? 一昨日と昨日と、何が違ってしまったんだろう。

カピバラの黒い目をじっと見つめていても、そこに答えは無い。起きあがって、少しだけカーテンを開ける。夜明け間際の、明るい空。空が夜と朝に二分されている。いつか、浜辺を歩きながら聞いた佐伯くんの話を思い出していた。

『知ってるか? 夜明けのちょっと前って、海も空も短い間に、真珠みたいに色が変わる』

本当に何となく。
海を見たくなった。
夜明けの海と空を見たいと思った。


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