学校に着いたら着いたで、取り巻き連中の追求が怖くて、こそこそと隠れている。全く、どうかしてる。
――一週間の約束。
今日で5日目。もう折り返し地点も過ぎた。ここまで、大きなトラブルもなく続けられたのはラッキーとしか言いようがない。今朝見た夢を思い出す。あんなことは御免だと思う。それなら……やるべきことはひとつだけだ。
○
放課後。帰りの支度をしていたら、クラスの女子の一人から声がかかった。
「佐伯くん」
声のトーンがいつもより落ち着いているのは、ここ数日のゴタゴタのせいなのかもしれない。
「ウチらも一緒に帰って良い?」
誘ってきた女子の後ろに数人。今朝の夢が重なりそうになる。
「ごめん、今日は急いでるから……」
「……そ、そっか」
「うん、ごめんね」
「あのさ、佐伯くん!」
緊張したような声。おそるおそる確認するような声が続く。
「……一人で、帰るんだよね?」
聞いて来た女子の他、周りの生徒も気遣わしげに見つめてくる。
「ああ、うん。急いでるからね。誰かと一緒に帰る余裕はないよ」
「“あの子”とも?」
「“あの子”って?」
「最近、仲良くしてる子、いるよね?」
今日まで、こんな風に聞かれなかった方がどうかしてたのかもしれない。
そうして、最悪のタイミングで当事者が顔を出す。
「佐伯くん?」
初日と一緒。でも、流石にこの空気を察したのか、いつもより声に元気はない。
「一緒に帰らない?」
正面側にいる女子たちの顔が曇る。俺の次の反応を探るような目。朝からもう何度も繰り返している台詞がまた頭に浮かぶ。
――こうなることは分かっていたんだ。
分かっていて、止めなかった方が、どうかしていたんだ。
今は後悔している場合じゃない。口を開いて、自分の役割を全うしないと。それがあいつにとって酷に見えるかどうかは、今は優先事項じゃない。
「悪いけど」
振り返って言う。他のみんなに向ける笑顔を貼り付けて。
「今日は急いでるから」
そう伝えて鞄を掴んで歩きだす。背後でたむろっている女子たちにも声をかける。
「ごめん。それじゃあ」
「…………佐伯くん!」
すれ違いざま、あかりが声を上げた。立ち止まる。
「でも、約束は……?」
向き直らないで、顔だけあかりに向ける。どこか心細げな黒い目が見上げてくる。笑顔を崩さないで言った。
「悪いけど、約束はしてないと思うな」
「……え?」
そのまま、あかりの呆気にとられたような顔に背を向けて教室を後にした。
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