「あのね……わたしたち、付き合わない?」
「……は?」





1日目)
お試し期間






5限終了のチャイムが鳴った。すかさず鞄を手に席を立つ。帰り支度はさっきの休み時間のうちに済ませておいた。早く帰るに越したことはない。店の準備もあるし、それに、今日は、特に。


「あ、佐伯くん、帰るの?」


教室から出ようとしたところで声がかかった。続けて「良かったら一緒に帰らない?」とか「ずるーい、わたしも!」だとか、例によってそういう声が上がる。無視出来たら楽だろう、本当に。けれど、そういう訳にもいかないので振り返った。


「ごめん、今日は急いでるんだ」
「えー、つまんなーい」
「佐伯くん、このあいだもそう言ってたよね。ね、明日は?」


うわ、また答えにくいことを……今日に限って、なんだって、こう……。
もたもたしてるうちに、どんどん時間が削られていく。


「佐伯くん」


背中に声がかけられた。振り返って顔を見てみなくても分かる。別段特徴があるわけでもないけど、割とよく通る、聞きなれた声――あかりの声だ。


「一緒に帰ろう」


そうして、その声はこんなことを言い出すわけだ。ああ、よりによってこんな状況でかよ、とか、こういう状況だからか、とか、いろいろ言いたいことが頭の中で渦巻く。

正面には、物問いたげな顔のクラスメイトの女子が数人。たぶん、いきなり現れて、とんでもないことを言い出した、後ろのあいつと、あいつの誘いに俺がどう答えるか、それを伺っているんだと思う。振り返るのが物凄く気鬱だ。

で、もたもたしてるうちに、あかりが次のセリフを投げつけてくる訳だ。


「今日一緒に帰る約束だったよね?」


あくまで邪気無く、この打算と思惑だらけの不穏な空気をまるで読めていないような声。正面側の空気が一気に冷え込んだ。ああもう、ほんとバカだなあとぼやきたくなる。


「そうだね、帰ろうか」


やけくそで、にこやかに振り返った。途端背後がどよめいた。誘いをかけた女子生徒グループだけじゃなく、なんか、クラス中が沸いたような騒ぎ。――ああ、いわんこっちゃない、と頭を抱えたくなった。


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