「すみませーん、お届けものですよー」
「はーい!」
いつもの聞きなれた宅急便の人の声に、私は少し大きめに返事をした。
荷物を受け取る作業なんかも新入社員の仕事な訳で、そのことにもだいぶ慣れた私は手際よくハンコを手に荷物を受け取りに席を立つ。
うちの会社は彼の担当なのか配達に来る人はいつも同じ。ゆるーいイメージと人懐っこい笑みが印象的な人で、真田くんとは顔見知りみたいだ。名前はたしか…お、思い出せないけど…!(いつも真田くんが呼んでたはずなのにな)毎回対応しなくてはならない私としては接しやすいのは有難い。
「ここにハンコお願いします」
言われた通りの場所にハンコを押して荷物を受け取り「ご苦労様です」と頭を下げれば「真田の旦那に宜しくね」といつもの笑顔を残して去っていった。
一体真田くんと彼はどんな関係なんだろう?
荷物を抱えたままそんな疑問を抱き彼の背中を見送っていると、ふいにぽんと肩に手が添えられた。
「なんだなんだー?去っていく背なんか見つめちまって」
「あ、チカ先輩」
「配達のアイツが気になっちゃう今日この頃、ってやつかあ?」
「いや、別にそういうわけじゃ…」
楽しそうにニヤニヤとしながら冷やかそうとするチカ先輩に苦笑しながら否定の言葉を返す。
するとチカ先輩は一瞬ぱちくりと目を見開いて「なんだ、違うのか」と呟いてから再び楽しげに笑ってみせた。
「バリバリ働きながら女の幸せ掴むってのも良いと思うぜー?」
「女の幸せって…まあ、確かにそうなのかもしれませんけど。取りあえずは仕事で手いっぱいですよ、私の場合」
「あっはっは、そりゃー神崎らしいな」
「うわ、どういう意味ですそれ?」
「いやー悪ぃ悪ぃ、まだ入社して数ヶ月だもんな」
大きな掌にぽんぽんと軽く頭を叩かれてからいつもの様にぐりぐりと撫でられる。
あああ、また必死にアイロンで伸ばしてきた髪がぁぁ…!私の朝の時間を返してほしい。
それに、何だか話しをはぐらかされた気がする。
「で、チカ先輩は何してるんですか自分のデスクから離れて」
「おー、そうそう!神崎に頼みてぇ仕事があってよ」
「なんでしょう?」
「今な、取引先の社長が商談のためにウチの会社に来てるんだ」
「は、はい」
急に真面目な表情になったチカ先輩が小声で話し始めるもんだから、どんな重大な仕事を与えられるのかと緊張して私は思わず背筋を伸ばした。
「で、だ。神崎。お前ちょっとお茶淹れて出して来い」
「ええっ!わ、私がですか!?」
「おう。かすがは今手が離せないって言うし、真田はお茶淹れなんかまともに出来そうもねぇし、な?」
「そんなぁぁー」
「ウチのお得意様の中でも一段と大会社だ。何か粗相があったら経営に関わるからな、気合入れて行けよ?」
「むむむ、無理ですって…!!そんな大役、私には務まりませんよぉ!!」
「だいじょーぶだって、お前ならできる!!」
二カっと笑って私の背中を給湯室の方へと押しやるチカ先輩。
大丈夫なんて励ますくらいなら初めからプレッシャーなんてかけないで欲しいものだ。
適材適所と人はいう
(人間だれでも得手不得手があるんですよ!)