喉の渇きに目が覚めた。この感覚は、ホテルでよくやりがちな空調をつけたまま寝たときのアレだ。隣で寝ている男を起こさないよう、ベッドからそっと抜け出した。とりあえず下着だけを身につけ、部屋の隅に設置してある小さな冷蔵庫へ向かった。取り出したミネラルウォーターを、ボトルから直接飲んだ。充分に冷えた水がごくりと喉を通過する感覚がよくわかる。

ふいにベッドのサイドテーブルにはずしてあった腕時計を持ち上げて時刻を見れば、すでに午前七時を回っている。その時刻を脳が認識した瞬間、ぼんやりとしていた私の意識は一気に覚醒した。急いでバックから携帯電話を取り出して、今日の日にちと曜日を確認して血の気が引いた。

今日は、日曜日だ。それも大安の。この二つの条件が揃っているという今日この時間に、自宅でもない、ましてやこんなホテルにいるという事実は非常にまずい。カーテンがきっちりしまっている所為ですっかり寝過ごしてしまった。いや、昨夜の深酒となんどかの行為のせいもあるか…。とにかく急がないと、物凄くまずい。

無造作に脱ぎ捨てられた服を拾い上げ、慌てて身につける。歯磨きして、顔を洗って、化粧も忘れずに。時間がない。ちらりとベッドサイドの電子時計を見やれば、未だにベッドにもぐっている男が視界に入った。こんな時間までのうのうとベッドで寝こけている目の前の男にイライラがつのる。もちろん、とんだ八つ当たりだ。彼は日曜日には仕事がお休みなんだろうし、私はそうじゃない。ただ、それだけのこと。だけど…今の私の精神状態では、目の前のこの男に見切りをつけるには、それは充分すぎる理由だった。なぜなら彼は、長年連れ添った私の恋人でもなければ、一途に思い続けていた想い人でもないのだから。つまりどういうことかと言えば、今そこのベッドにいる彼との出会いは合コンなのだ…それも昨夜の。


25歳にもなって、私はまだ溺れてしまうような盲目的な恋愛というのを一度だってしたことがない。男なんて。いくら口では『愛してる』とか、『好き』とか、甘い言葉を口にしていたって。結局は、一人の女だけじゃ満足なんて出来ないイキモノ。そんなどうしようもない自然の摂理をどうこうしようったって、どうにかなるもんでもないもの。
いちいち他の女とのことで嫉妬して怒ったり、会えなくて寂しかったり。冷たくされて悲しくなったり、苦しくなったり。そんな感情、疲れるだけ。だったら、最初から恋愛感情なんて持たない方がいい。自分にとって、どれだけトクになるか。そんなお付き合いをすればいい。
どうせ。結婚しちゃえばソレで終わり。いくら愛があったって、ソレはそのうち簡単に泡となって消えるんだからそこに愛なんてなくたっていいよ。だったら優良物件を掴んだもの勝ち、ってね。ウエディングプランナーなんて職業柄、こんなことをいってしまうのは非常にまずいんだろうけどね。


大方の化粧を終えて、仕上げに口紅をさした。化粧ポーチをバッグにしまい、それを肩に掛けて部屋を後にする。ガチャリとオートロックの扉が閉まるのを聞きながら、片手に持った携帯電話から昨日の合コンで知り合ったばかりの彼のメモリーを消去した。




ヴィヴィッド・アデュー
(何事も、見切りをつけたら早いものよ)



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