頭の芯にある独特の頭痛に耐えながら日曜日の空いている電車に揺られ、駅についたとたん全力疾走。息を切らせて職場にたどり着けば、多くの人がすでに慌しく走り回っていた。それもそうだろう…なんてったって今日は大安の日曜日、絶好の結婚式日和なのだから。

ウェディングプランナーの仕事は、正直キツイ。土日祝日の式本番となると、早朝から準備が始まる。それ以外が定時に仕事を終えられるかと言えばそうでもない。客の都合に合わせて打ち合わせの時間が決められるため、仕事帰りに打ち合わせが入ることはざらだし、深夜残業がほとんどだ。
だからと言ってこの職業が嫌いかといわれたらそうではない。たとえ自分自身が結婚に対してうっとりとするような夢はみていなくても、結婚に対して否定的というわけでもないし、挙式や披露宴で新郎新婦や列席者の幸せそうな表情を見れば、また次も頑張ろうと思える。

今日は、三組もの挙式が予定されているはずだ。当然私も担当する挙式があるわけで…いくら遅刻でないとは言え、悠長に定時出勤している場合ではないのだ。担当の挙式があるときなど、普段ならこの一時間以上前には出社している。

急いでロッカールームに駆け込み制服に着替え、後ろ髪をまとめながら自分のデスクへと向かうと、不機嫌な顔で腕を組んでこちらをみていた男と視線が交わる。あー、しまった忘れてた。今日の挙式披露宴は、この男と組んでいる仕事だったのだ。無言の圧力で急かされ、慌ててデスクのファイルから打ち合わせ資料やら挙式披露宴のタイムスケジュールなど細かいことの書いてある必要資料を取り出すと、彼のもとへと足早に向かう。


「おはよう、ございます」
「遅い…」


すぐ傍まで行けば、より一層眉間に皺を寄せて、眼下にいる私をぎろりと睨みつける。この男の名は真田幸村。私と同期での入社にもかかわらず、目覚しいほどの実績をあげ売上はつねに上位。この男に負けたくなくて私だって色々と努力しているのに、悔しいことに真田と私の差は倍近く違うことも多い。近いうちにこの男が私の上司になる可能性すら見えてきて、まったくもって私は面白くない。

そんな出世街道まっしぐらな彼は顔もなかなかのものらしく、先輩後輩上司部下…果ては部署問わず女性社員の人気を集めているようだ。同期ということもあってか、なにかと彼と仕事を組まされる私への女性社員たちの視線が痛いこともしばしば。この男との関係を誤解されて、いらぬ恨みをかうだなんてとんだ迷惑だ。

私の遅刻に心底迷惑そうな顔をする真田に、日頃の被っている迷惑を懇々と説明してやりたい気分になったが、今の状況でのそれは墓穴を掘る行為でしかないのでとりあえず謝っておくことにしよう。


「ほんと、お待たせしました。申し訳ないです」


丁寧な言葉遣いに深々と下げた頭。彼に対してのそれがどれだけ屈辱かというほどの私の最大限の謝罪をさらりと受け流すと、真田はわざとらしく溜息をひとつついた。


「どうせまた…合コンで捕まえたろくでもない男と一夜を過ごし、そのまま出勤してきたのであろう?」


こともあろうにそんな確信をつくような一言をいってのける。本当に腹立たしい男だ。


「なにそれ、どういう意味よ?」

「どうもこうも、そのままの意味だが?出勤した私服が昨日と同じならば容易にわかること。いい加減、貞操観念を見直したほうがいいのではないか?」

「あのねぇ…私が遅れてきたのは悪かったし、申し訳ないと思うけど…プライベートまで真田につべこべ言われる筋合いはないわ」

「べつに仕事に支障をきたしてなければ、なにも言わぬ。もう少しプロとしての自覚を持てと言いたいだけだ。時間がない、走るぞ本条」


真田は苛立ちを隠そうともしない態度でそう言い放ち、小走りに駆け出した。確かに、それはごもっともだ。私だって、いつもこうして時間にルーズな訳ではないし、今日の失態は随分と自己嫌悪を伴っている。私自身、仕事はプロ意識と自信をもってやりたいとおもっているからこそ、真田の言葉はすごく悔しいものだった。

悔しさに拳をきゅ、と握り締めてから不本意ながら真田の背中を追い掛けた。




グッドラック、グッドライフ
(妥当真田を胸に誓って、今日も仕事に励みます)



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