揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

驚くのも無理ありません。


「ただいまー!」

 気分上々な私は元気よく声を出しながら玄関の扉を開けた。今にもスキップしそうなくらい私の心はルンルンなのだ。いや、むしろ玄関まであと数メートルというところでしだした。どうしてこんな状態なのかというと、生徒会室から出た後、家に着くまで私はひたすら妄想にふけっていたのである。
 偶には柳くんを攻めにしてみるのもいいかなー。書記×会長…なんか響きが萌える!!ロールキャベツ系柳くんと無意識のうちに色んな人に愛嬌を振り撒いて人気な片倉くんがあまりにも他の人と仲良いから嫉妬して色々やらかしちゃう柳くん。これはなかなかあり!でも、腹黒い片倉くん×柳くんとかマジ萌える。やばい。柳くん超絶可愛い!ってか結局柳くん受けじゃん。
 だとか危ないことをニヤニヤ考えて帰宅していたわけだ。本当に怪しいくらい顔が緩んでいたために、リビングに入ったら姉に「お帰り」の前に「にやけすぎ、きもい」と言われてしまったほどである。兄には言葉すらかけてもらえなかった。ひどい姉と兄だな!

「きもいって言われようがもうなんかいいよ。それ以上に気分上がってるから」
「もしかして、新たなネタ発見ってか」
「そういうこと!腹黒生徒会長×例の柳くんだよ」
「あー言ってた柳クンね。私は“夢”まっしぐらだから」

 この姉、大まかには私と同じ部類の人間だが、決定的に違うのは、姉は夢小説派で所謂ドリーマー。そして私は腐女子だということ。アニメや漫画やゲームの話はよくするが、キャラの深い話となってくると、趣味が全くかみ合わない。キャラの話となると、兄の方が分かり合える。というのも、女の子限定だが。

「そうだ、お兄ちゃん。今度あれ借りたい。神崎ちゃんがいるギャルゲー」
「今貸せるけど」
「今じゃないの。今からは漫画書くから」

 その内お願い!と言いながら自分の部屋へ向かおうとすると、後ろから母の声が掛かった。弁当と水筒を出してから二階へいけということらしい。しょっちゅう忘れては朝に出して、母に怒られながら洗ってもらうのである。私は急いでそれを出して、階段を駆け上がった。
 よし、生徒会メンバーで書いてやるぞー!!なんて意気込んだことを後悔することを私は知らない。

***


 土日は丸々使って漫画や小説を描いていた。朝方まで作業に没頭しては、寝て、昼頃に起きてはその辺にあるもの食べて、また描く。なんて不規則な生活を送ったせいで、月曜日の朝、寝坊してしまって遅刻した。二時間目が始まる前に寝ぼけた顔で教室に入れば、友達に笑いながらおはようと声をかけられた。

「あーおはようございますー…眠い」
「どうせ五時ごろに寝たんでしょ。あ、あれ見たよ。漫画。絵にされるとやっぱ萌えるわー」

 頭がまだうまく働いていないのでその話はあとでみっちり語り合おうぜ、と言って席に着いた。ああ…お腹空いた。急いで出てきたからご飯食べてないんだよな…。何よりも眠い…。
 項垂れていたら、何かで頭を叩かれた。顔を上げればノートを持つ柳くんがこちらを見ている…というよりは、見下しているほうが正しく、馬鹿にしたような顔でハッと笑いやがった。

「お腹が空いたと思っている確率96.2%…自業自得だな」
「はいはい。そうですね…」

 言い返す気力すら残っておらず、私はまた机に突っ伏した。眠い。お腹空いた。眠い。お腹空いた。そればかりが私の頭を占拠していたのであった。二時間目の授業中も寝ていたことは言うまでもない。


 それから待ちに待ったお昼ごはんを食べて、遅刻記録カードを担任の先生に渡すために私は職員室に来ていた。生徒課のこわーい先生のところには朝のうちに既に行ったから、残るは担任から判子をもらって渡すだけ。二週間に一回は必ず寝坊しており、遅刻常習者となってしまった私は、先生にはすでに諦められているので「次からは注意しなさい」などと言われなくなった。成績も最悪だから、ブラックリストにでも載っているんじゃないかと思っている。

「失礼しましたー」

 そう言いながら戸をぴしゃりと閉めた。ようやく面倒事が終わって教室に戻れる!そう喜んでいた矢先、職員室前で出会った柳くんに何故か出会い頭「来い」と言いながら腕を引っ張られた。相も変わらず容赦なく込められている力のせいで腕が痛い。

「ねえ、なに?痛いんだけど」
「いいから来い」
「わけわかんない…ポニーテールはもうやんないからね」
「今日はそのことではない」

 今日はってどういうことだよ。いつかまた私にポニーテールしろというんですか。あ、巫女服とセーラー服がどうだのって言っていたような…だからって誰が着るもんか。とりあえず、ついて行くから腕離してほしい。本気で痛い。
 
「逃げるわけじゃないんだから腕離し「信じられんな」

 即答にもほどがある。そんなに私って信用されていなかったのか。ひどいやつ…。ぶつぶつと呟いていたら、生徒会室にたどり着いた。何でここなんですかね…と思ったと同時に部屋に投げ込まれた。

「うぎゃっ!!」

 膝打った。痛い。痛い…。痛いです…!柳くんのせいで赤くなった膝を抱えながら、恨めしいとでもいうように柳くんを睨めば、吃驚する言葉が出てきた。

「もう少し女らしい声をあげられないのか」
「な…っ!」

 こ、こいつ!痛がっている女子に対して心配の言葉をかけるのではなくそんなところ指摘するのですか!?あーもーごめんなさいねー。「きゃあっ」なんて言えなくて!あんな声出すの二次元の女の子くらいだと私は思うんですがね!

「とりあえずさ、用件は?」
「苗字は、ピクサブで野菜ラーメンというユーザーを知っているか?」

 ちょっと、待て。それ、私のハンドルネームなんですけど。え、嘘だろ。もしかしてバレた?有り得ん。いや、有り得てんだけど信じられない。
内心、とても焦りつつも知らないふりをして「さあ、分からないな」と答えた。

「ほう…そうか。そいつのアップしているBL漫画がどうも立海男子テニス部に見えてな。最近は「生徒会長とふたりきり」とかいう題名でこれまたBL漫画をアップしている。お前の周りには三次元のBLには興味のないやつらばかりだと以前言っていたが、一人はいるのか?」
「ああ、もうごめんなさい!!!!」

 絶対に私だと確信したうえで言ってるだろ。本当、何で私のハンドルネーム知ってるんですかね。もしかして、アップしていた漫画や小説全部見られたんじゃ…この前見られたノート以上にひどいもんだらけだぞ…。特に幸柳とか…あ、82も。

「…あのさ…もしかして、見た?」
「もちろんだ。絵柄ですぐにお前だと分かった」
「なら、何でわざわざ知ってるかなんて聞いたの…」
「お前が嘘をつく確率は86%だったから、試しに聞いてみた。するとどうだ、予想通り嘘をついたというわけだな?」
「すみませんってば!」

 膝の痛みなんか忘れて、私頭を抱えていた。どういう経路で見つけたの…おかしくない?どうやって?
 口を結んで真剣に考える。すると、舞い降りてくるかのように神埼ちゃんの顔が思い浮かび、見つけられてしまった経緯が思い付いた。
 ギャルゲの女の子だ!私、そっち系の女の子も描いたらアップしてるから、それでもしかしたらコイツ…ってなったんだ。そうに違いない。

「分かったようだな。そうだ、ピクサブで神崎名前のタグで見て回っていたら、野菜ラーメンというユーザーを発見し、見覚えのある絵柄だったために他の作品を見たら確信したというわけだ」
「はあ…そうか…バレるなんて思いもしなかったよ…」
「訴えるぞ」
「消すからそれだけはy「冗談だ。神崎の絵をもっと描いてくれれば許してやらないこともない」

 フッと笑みを浮かべる柳くんを見ながら頷いた。書けばいいんでしょ。書けば。さっきの台詞、神崎ちゃんを描くなら漫画描いていいっていう風に受け止めるから知らないよ。なんて勝手に心の中で決めつけておく。
 帰ったら、お兄ちゃんにあのギャルゲ借りて早速だけど神埼ちゃんルートいこう。そしてお望みの通り、神崎ちゃんを描いてやろうじゃん。「生徒会長とふたりきり」の漫画の続きを描くためにもね。

******
あとがき
 兄と姉がいないので、どういう感じのキャラにすればいいのか分からなかった(笑)
それよりも夢主謝りすぎだ。そして、ハンドルネームのデフォルト名はもう少しどうにかならなかったものか…。
(~20131102)執筆

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