揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

反応に困ります。


 あーもう体が痛い!昨日、仁王くん→ブン太くん←赤也くんの三角関係漫画を描いていたら、知らない間に机で眠ってしまっていたのだ。首も寝違えているし、腰もなんだか痛むし、横になりたい。そうだというのに、今日は憎き水泳がある。コンディションは最悪だし、いつも以上に泳げる気がしない。休んでやろうかな。

「おはよう、苗字」
「あーやなぎくん…おはよー……」
「どうせ遅くまで漫画を描いて寝不足なのだろう、朝からみっともない顔をするな」

 みっともない顔て!相変わらず酷い言いようだな!小声だとしても言ってる酷さは変わらないからね。

「今日は寝違えで体が痛くて、しかも水泳があるから気分がとにかく最悪なんですー」
「寝違えか、どちら側の首が痛むんだ?」
「え、右だけど」

 すると、柳くんは荷物を下ろして、私の後ろに立った。

「体と手首の力を抜くんだ」
「う、うん」

 何故? と思いつつも私は言われた通りにした。私が脱力したのを見てとると、柳くんは私の右腕を少しずつ後ろに引き上げる。ある程度のところで痛くなって、私は「いたっ」と声が出た。

「体が硬いな、日々ストレッチをすることを勧めよう」

 私の腕をその位置で固定しながら、そんなことを言った。それから、柳くんは20秒経ったら私の腕をゆっくり戻し、そしてまたそれを2セット行った。

「次は腕を90度、肘を120度の形に作れ。その後、肘を軽く後ろに引き20秒固定する。これを2セットやるんだ」
「え、あ、え?ご、ごめん、もう一回言って、え?肘を90度?」
「はあ、仕方のないやつだな」

 また柳くんは私の腕を掴んで、説明の通りの角度で腕を固定し、20秒計った。その時に柳くんが後ろから、こそっとこんな話を振ってきた。

「昨日、告白されたらしいな」
「えっ?!」

 びっくりして、首だけ後ろに捻ったら、すごく痛かった。

「な、何で知ってるの?」

 柳くんは私の首を前に戻しながら「俺の情報網を舐めるな」と言った。いや、舐めてないけど、情報速すぎでしょ。こわ!!
 私は咄嗟に告白してきた男の子を探したが、見当たらなかった。

「それで、どういう返事をしたんだ?」
「そこまでは知らないんだね。今は付き合う気がないからって断ったよ」
「ほう、そして彼と連絡先を交換したと」
「えっやっぱり知ってるの?!」

 柳くんは後ろでドヤと言わんばかりにフッと笑っている。結局、全部知ってるのか知ってないのかどっちなんだ…?

「柳くんって真性のストーカーだよね」

 腕を掴んでいない方の手で柳くんは私の左腕の二の腕を摘んだ。

「痛っ」

 これ、割と痛いからやめてほしい。だが何を言っても柳くんはやめてくれないので私は黙って柳くんにストレッチをさせられていた。

「これで終了だ」
「わーちょっとマシになってる気がする。すごい」
「俺がせっかくストレッチをしてやったのだから、真面目に水泳の授業を受けるんだな」
「えー……」

 うわ、水泳の授業を寝違えを理由に休んでやろうかとか、割りかし思っていたのに、やはりバレていたのか。さすが柳くん。

「今日もちゃんとポニーテールにするんだぞ」

 だなんて最後に耳打ちしてきたので、彼の魂胆はやはりポニーテールだと知る。ほんと、柳くんってポニーテールで三度の飯が食えそうなくらいポニーテール好きだよね。

******



 更衣室で水着に着替えているときだった。友達がニヤニヤしながら話しかけてきた。

「ねえ、朝のイチャイチャ何だったの?」
「イチャイチャ?何の話?」
「柳くんに手取り足取りストレッチしてもらってたじゃない。クラスで噂になってたよ」
「え、うそ!最悪じゃん」
「あたし最近、柳くんは名前のことが好きなんじゃないかって割とまじで思ってるんだよね」

 そんなことを別の友達が言うので私は日頃どんな暴力と暴言を受けているかを説明したが、反論されてしまった。

「それは、心許してる証拠っていうか」
「ほら、あれでしょ。小学生によくある好きな子に意地悪したくなるやつ」
「まさか。それにしてはキツすぎだよ。朝なんて寝ぼけてたらみっともない顔とか言われたんだけど」

 挙げ句の果てに友達は「柳くん×わたし」のNLがイケるとか言い出して、私は気色悪いから本気でやめてくれって苦笑いしながら訴えた。
 いくらNL好きの友達とは言え、私と柳くんのカプはないわ。だって、柳くんはテニス部との総受けって決まってるんだから!と語っておいた。

 そして、私は柳くんに声をかけられたら面倒だから気持ち高めに髪をくくる。いや、それはそれで「ちゃんとしてるじゃないか」って声かけられるか?なんて考えながら更衣室から出ると、丸井くんと居合わせた。

「おっ、名前!」

今日の天気に負けないくらい晴れやかな笑みで挨拶してくれる。
ブン太くんの顔を見たら、昨日に描いていた漫画を思い出してニヤニヤしそうになった。どうにかニコニコするように努めながら、おはようと返した。

「あ、あのさ、」

そうブン太くんが言いかけると同時に集合の合図を知らせる笛が鳴り、先生の声が響き渡る。

「タイミングわりぃな。んーまたメッセするぜぃ!」

眩しい笑顔でピースした後、男子の列に走って行く背中を見ながら、この学校でピースが1番似合うのは彼だろうな、だなんて考えていた。すると、隣に立つ友達がぼそっと言った。

「あれは名前のこと好きだね」
「うん、私もそう思う」

 さらに別の子まで同意するので、私はそんなわけないと言ったが、またしても否定された。今まで男子とこんなに話すことがなかったから、きっとからかわれているんだろうけど、反応に困るからやめてほしい。
 丸井くんだってこんな腐ったオタクを好きなんて勘違いされたら嫌だろう。

(20220306)執筆


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