揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

がめつい人間で悪かったですね。


 翌日、朝練が終わって教室に入ってきた柳くんに「せめて3日前に頼んでくれる?」って開口一番に言った。

「テスト期間に言えばお前は勉強そっちのけで描くだろう?」
「ま、まあそうだけど……」
「今回は最終日だったんだ、あのタイミングで言う他ないだろう」
「いや、まあ確かにそうかもしれないけど……」

 分からなくもないが言い返したい気持ちでいっぱいだ。不服そうに横目で柳くんに視線を向ける。いじけたように言葉をこぼした。

「お礼の一つくらい言うなりするなりしてくれたらいいのに」

 こちとら今まで柳くんのために何枚描いてあげたか。それに比べて柳くんは存在するだけで私が勝手に妄想して萌えを与えられるんだからいいよね。
 そりゃ、一度は半裸姿を観察させてもらったことはあるが、あれはあれで私はポニーテールにセーラー服姿の写真あげたし。 

 口を尖らせて心でブツブツと不満を垂れ流していたら、いきなり頭に手を置かれた。
 どういう風の吹き回しだ?と思ったら、柳くんは隣でしゃがみ、私の耳元まで顔を近づけた。

「今度、お礼にコピックを買ってやろう」
「は?」

 いやいや、本当にどういう風の吹き回しだ?って言葉しか出ない。え?

「どういう風の吹き回しだ?とお前は考えているだろうな。買ってやれば、アナログでも描いてくれるのだろう?」
「え?でも、コピックって高いよ?」
「知っている。税込み価格で418円だったな」
「う、うん」
「好きなイラストレーターの絵を買うのだと思えば安いものだ」

 はい?好きなイラストレーター??突然、降ってきた言葉に私は固まる。
 そんなこと言われたのは初めてだし、イラストレーターって呼ばれるほどの絵描きじゃないと思う……。

 無言で黙る私の頭をポンポンっと柳くんは二回ほど叩いて手を離した。

「言っていなかったか?俺は苗字の絵が好きだから描いてくれと頼んでいる。例えば好きなイラストレーターは誰かと問われれば、俺はお前だと答えるぞ」
「へっ……え?」

 私は柄にもなく照れた。いや、マジでそんなこと急に言われるとか思わないじゃん?!

え!やっぱ、なんか恥ずかしいし!なにこれ無理!顔熱いんだけど!!!

 顔を逸らすと、微かな笑い声が耳に入ってきた。

「フッ……容姿を褒められても接近されても照れないというのに、そこは照れるのか」
「えっ……いや……うん……」

 否定したところで何の効果もないと思い、私は居心地悪く髪の毛をいじりながら頷いた。

「ありがとう……」
「ふむ、新たなデータだ。覚えておこう」
「え?……あーまあ……コピック買ってくれるなら覚えてほしいかも……」
「はあ、偶には中身も可愛いところがあると思ったのにがめつい人間だな。可愛げのない」
「悪かったね、可愛げなくて」

 顔は、まだあつい。

 なんか、そんな褒められたら別にコピックとか買ってもらわなくても柳くんのために描いてあげようとか思っちゃう。
 まあ、コピックは是非とも買って欲しいので、買ってもらうけど。

 あ、がめついのって、こういうところだ。

******

 今日は掃除当番だ。放課後に教室を清掃しなければならない。
 ほうきで床を掃き、水拭きをする。今日こそ、さっさと帰ってブン太くん受けを描こうと思ってたのに掃除当番だなんてツいてない!

「じゃあ、ゴミ捨てはじゃんけん負けた人で!」

 グループの1人の子がそう言った。早く帰りたいよー勝ちたいよー。

 その一心で拳を出したら負けました。私の拳は紙に負けます。ゴミ捨てめんどくさい……。

「じゃあ苗字さんよろしくね!」
「よろしくー!」

 声をかけながら、みんなは帰っていった。私は鞄を肩にかけ、ゴミ袋を片手に持った。
 ゴミ捨て場は高校の校舎である2号館から少し離れていて、外にある。しかも、私が出る東門と逆側の西側にあるのでマジでめんどくさい。無駄に広いのやめてほしい。

「はあ……」

 昇降口で靴を履き替えていたら、友達に出会って少し話をした。数十分すると友達は部活へ、私はゴミを捨てに行った。

「ふっふふん〜」

 他クラスの掃除当番は既にゴミを捨てたのか、ゴミ捨て場の近くは閑静としている。
 1人だと思うとつい周りを気にせずに私は鼻歌混じりに歩いた。少しでもテンション上げとかないと、ゴミなんか捨てに行ってられないよ。
ちなみに、ハイスクールガールズ3の黒髪ツインテールの子のキャラソンだ。

「ストロベリースマイル〜見せてあげちゃう〜♪」

 鼻歌どころかモロで歌い出した、その直後。

「あの、苗字さん!」
「うわあぁっ!」

 ドサッと音を立ててゴミ袋が落ちる。振り返ると同じクラスの男の子がいた。うわあああ絶対に聞かれた!!ギャルゲーのキャラソン歌ってるところ!!!

「あっ、は、はい!」

 ガチコチとしながら返事をすれば申し訳なさそうに軽く頭を下げられた。

「ご、ごめん、驚かせて」
「だ、大丈夫!そ、それで私に用事かな?」
「ちょっと、話があって」
「うん?」

 少しの沈黙。彼は緊張の面持ちで俯いたり校舎の方を向いたりする。
 一頻り、彼の視線が泳いだあと、彼は口を開けた。

「あ、あの、苗字さんのこと、す、好きなんだ。だから、付き合ってもらえないかなーって」

 お、おう!?告白か!全然話し出さないから重たい話でもされるのかなあとか考えていたよ。いや、しかし、すまぬ……私は男を純粋に男として見られないので……。

「ごめんね、ちょっと今は誰かと付き合うとかは考えてなくて……」
「い、いや、こっちこそ突然ごめん!」

 それから彼は友達として仲良くしたいから、メッセージをしていいかと聞いてきた。私はオッケーだと言った。
 ついでに返事が遅いことと、普段はあまりしないから話は盛り上げられないかもしれないということも伝えた。

 以前、仁王くんに「俺には構わんが返事切るの早すぎじゃ。ブンちゃんとはもうちょい会話してやってくれん?」って言われてから意識はしてるんだけどね。

 それにしてもブンちゃん呼びとか可愛すぎかよ〜!?あの2人、中3の時に同じクラスだったもんなあ〜!うわあ妄想始まる〜!って思ったのは仁王くんには内緒。

******
あとがき
 これもメモに残ってました。(なぜ2018年にあげなかったのか)。
(20180913→UP:20210718)執筆

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