揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

徹底的に片付けなきゃやばいです。


「おい苗字ー聞いてるのかー、すまん柳、起こしてやってくれ」

 その声とともに柳くんが私の肩を揺する。顔を上げれば先生と目が合った。

「もしや苗字は柳に起こされたいから毎回寝てるんだな、はっはっは」
「……へ?いやいやいや、違います……!」

 いくら寝ぼけている私でもこれは流石に言い返した。見え透いた冗談とはいえ皆の前で揶揄するのはいい加減やめてほしい!むしろ起こされたくないし朝の会くらいそっとしといてほしいんだけど……って先生的にはそうじゃないのは分かってるけど……。

「2週間後にはテストだというのに、本当に苗字は気が引き締まらんやつだなあ」
「え、テスト……?」
「7月5日から7日にかけて期末考査が行われる」

 と、柳くんは即座に横から説明してくれる。そしてわざとらしく「昨日のSHRでも言われていたはずだが?」と私に問いかけたのだった。もちろん昨日の朝も机に突っ伏していた私が聞いているわけがない。
 未だに呆けた顔でいたら、先生は腕を組んで笑顔で口を開いた。

「これを機会に柳に教えてもらえ、ぐっと距離が縮まるぞ。ああ、苗字のテストの順位もな、ハハハ」

 くすくすと笑いが起きる。もー!先生ったらまた私たちっていうか私をからかう!躍起になって言葉を返しても大した効き目がないのはわかっていたので、私は冷静に「遠慮しときます」って言おうとした。しかし、隣に先を越されてしまったのだった。

「俺でよければ教えよう。順位の方は保障するぞ」

 おいいいいい!!いつもの猫被り笑顔で何言ってくれてんですかねえええ!?それは周囲からの好感度アップを狙っているんですか?そうですか?
 ってか、そんなこと言ったらまたからかわれるんだよ!?柳くんなら分かるでしょ!?嫌じゃないのか!?

 ……はっ!なるほどそうか、柳くんみたいな有名人は話の的になることが多すぎて私と基準が違うわけだ……こんなの序の口なんだわ……。

 今こそ私は「心の底から遠慮します」って真顔で答えた。だってまたあんな勉強三昧な休日は迎えたくない。マジで。私は提出物だけを終わらすだけでいいです。


 という朝を経て、お昼休みにきた柳くんからのメッセージにげんなりしている。マジですんのかよ、勉強会。

『今週の日曜日は考査1週間前になるということもあって午前練習のみだ。昼から仁王と苗字の家に行く。勉強をメインにゲームも少しだがやる予定だ』

 なんでやらないか?じゃなくて「行く」って一方的なの?本当に柳くんって私の予定聞かないよね。でも何故かある日は入れてこないよね。何なの?私の予定全て把握してるの?こっわ。怖すぎる。そうだ、たまには嘘でもついて断ってみよう。

『私、今週の日曜日予定あるんだよね。家に来ても私はいないよ』
『嘘をつくにしろもっとマシな嘘をつけ』
『嘘じゃないもん』
『では一体、勉強より優先される予定とは何か事細かに説明してみろ』

 私はすぐに思いつかなかった。少し考えたのち、このように送ったのだった。

『ひいおばあちゃんのお見舞いで千葉県に行く』
『5分7秒、返事が遅れた。言い訳を考えていた時間だろう?諦めて勉強するんだな』

 私は言い返せなくて既読無視する。そして、仁王くんに『日曜日、予定あるのに柳くんが信じてくれない〜説得して!』とメッセージした。すると『詐欺師に嘘を吐くのは高難易度ぜよ?』という返事がきた。なんで仁王くんも嘘だってわかるの?

 スマホを手に頭を抱えていたら、教室に戻ってきた柳くんが言葉をかけてきた。

「俺や仁王にはお前の嘘は通らない。吐くだけ無駄だぞ」
「ええ……本当だったらどうすんのさ」
「本当の時は何も言わんだろう」
「何それやっぱり柳くんって私の予定すべて把握してるの!?」
「さあ、どうだろうな」
「こわ……」

 やはり参謀という名でも呼ばれるだけある。ストーカーまがいの情報収集能力だ。イラストと引き換えに教えてくれた丸井くんのデータ、本当に友達かよってレベルの精密さだったもんな。家族でもそんな知らない。
 丸井ブン太くん、4月20日生まれ、身長164cm、体重53kg、足のサイズ26cm。他には家族構成や好きなタイプに行きたいデートスポット、はたまた血糖値や日課……。いや、まあBL漫画のために全てメモした私も私なんだけどね……?丸井くんの個人情報抱えてごめんなさい。
 今更だけど、隣のクラスにいる彼を思い浮かべて心の中で謝罪してみた。

「ってか柳くんって私のデータどれくらい持ってるの?」
「言ってやろうか?まずは身長かr「待って、ちょっと待って。なんで身長なんか知ってるの?まさか体重も?もはや3サイズまで!?」
「ああ、全てノートに記載してあるぞ」
「うわ、きもい」

 無意識に私の口から放たれる。光なら絶対にそう言ったし、なんなら仁王くんはいつものあの何とも言えない真顔になっただろう。いや、仁王くんはその辺慣れているのか?それだったら、ちょっと仁柳感じちゃう。


 日は過ぎやってきた日曜日。テスト前だろうと私の寝る時間と起きる時間は変わらない。何なら起こされなきゃ起きない。
 そのため、前回と同じく柳くんからはお昼の“モーニングコール”がかかってくるのだった。

『おはよう、苗字』
「んー……」
『突然だが丸井も一緒になった」
「んーまるいくん……?」
『俺は丸井ではない。はあ、本当に苗字はなかなか起きないな』
「んー……」

 ……眠りを誘う心地いい声が聞こえる………昨日遅くて、まだ眠いです……おやすみなさ……

「苗字ーーー!!」

 突如、スマホから響く大きな声。

「……う、うわっ、だ、だれ!?」

 カッと目を開く。

『苗字!いつまで寝てんだよ!もう昼だぜぃ!』

 この声は……

「丸井くん……?」
「イエス!苗字って案外寝坊助さんなんだな!」
「昨日遅くて……」
「勉強か?まじめだなー」
「いや、ブn……、ちが、えっと、そうそう!勉強してたの!うん」

 ブン赤描いてたって言いそうになった〜〜やべ〜〜〜寝ぼけてる時に丸井くんと話すべきじゃない。

「ん?とりあえずさ、俺も一緒に行くことになったから!寝んなよ!」
「……ということだ。片付けは済んだのか?シャワーを浴び次第出るから14時には着くぞ。ではまた」

 そして切られた電話。片付け……?

 ……ってそういうことかー!!!!

 丸井くん来るんならこんな部屋じゃ駄目じゃん!!グッズに漫画にゲームに……ん?あー!昨日描いたブン赤のイラスト落ちてるしいいいいい!やばいよ、この部屋。徹底的に片付けなきゃやばいよ!?
 っていうか何故、丸井くん!?我が家なんだから配慮してくれよ柳くん!あと仁王くん!

 そうか、仁王くんちにしようって言おう。ってことで仁王くんにメッセージで提案したら「うちは無理じゃ」って秒速で帰ってきた。

 この野郎おおおおおお!うちも無理じゃ!いやいや本気で、やばいぜよ?マジで無理ぜよ?!(錯乱)

「……はっ、今何時だ」

 時計を見る。時刻は12:48。1時間と少し。無理じゃない?こんだけの物片付けるのに1時間と少しとか無理じゃない?何で丸井くんいるならもっと早く起こしてくれなかったのよおおおおおお!!!

(~20180813)執筆

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