One second of eternity. | ナノ

Summer festival―Accidental resemblance―
携帯をガイノイドの名前にしてから2ヶ月15日が経った。
今日は家の近くで夏祭りが行われているということで、名前と二人で来ていた。先週の休みに購入した浴衣を二人とも身に纏って、並んで歩く。人造人間の携帯とはいえ、こうしていると彼女がいる気分になる。
「浴衣、よく似合っている」
「ありがとうございます。普段から着流しを着ていらっしゃるだけあって、あなたも似合っていますよ」
"あなた"という呼び方に微妙に引っかかりを感じつつも、ありがとうとお礼を言った。そして、名前の手を取れば少し驚いたような顔をした。
「はぐれてはいけないからな」
目をぱちくりさせながら、名前は頷いた。
それから、二人で色んな屋台を回った。りんご飴、綿菓子、たこ焼き、フランクフルト、カステラ。そして、次はかき氷の屋台に来ていた。
「いらっしゃい!ここから好きな味を選んでね」
元気の良さそうなおばさんが、並べられたシロップを指さした。
「…………」
名前が食い入るようにキャラメル味のシロップを見つめた。きっと、こんな味が実在するのかと興味を引かれたのだろう。
「可愛い彼女だね〜。キャラメルにするかい?」
あえて俺は否定せずに微笑めば、名前が訂正を入れた。
「いえ、私は恋人ではありません。ガイノイドです」
「あら、そうかい。後ろで並んでいるときもいい雰囲気だったから」
苦笑いを浮かべる名前の頭にぽんっと手を乗せて決まったか?と聞いた。
「では、キャラメルで」
「俺もそうしよう」
「キャラメル二つで600円ね」
お金を渡すと、まいどー!と言いながらかき氷を手渡してくれた。そうして、屋台が並んで人が混雑した場所から一旦離れて、比較的に人の少ないところへと移動した。
「…あと、26分で花火が始まります」
「ああ、それまでここでかき氷を食べていよう」
「はい。ここからなら少し遠いですが花火が綺麗に見えるでしょうし」
頷くと、名前はかき氷に視線をやって、食べ始めた。その姿を少し見ていると、食べないのですかと聞かれた。
「食べるが、今は名前を見ている」
「あなたは私が物を食べる姿は毎日見ているので面白くないと思いますが」
「かき氷は初めてだろう?どうだ?」
「キャラメルは好きなので、美味しいです。それに冷たくて」
「そうか。一緒だな…」
あの子もキャラメルなどの甘いものが好きだった。そして、寒がりなのに冷たいものが好きで、よく風邪をひいては看病していた。
昔の記憶が思い出され、遠い目をした俺を名前は見つめた。
「…誰とですか?」
「いや、昔の話だ。気にしないでくれ」
「はい」
それから、花火が始まるまでの間沈黙が続いた。俺から話しかけるわけでもなければ名前からでもない。ただ、口を噤んでいた。
「…………あの、」
花火が打ち上げられる数分前に名前が口を開いた。
「花火を、写真か動画に残してもいいですか?」
「構わないが、どうやって撮るのだ?」
「この目で見たものを収めます。動画の場合はあとから編集で切り取れば画像として保存できます。写真は合図をしてくれればその瞬間を撮りますが、どうされますか?」
少し考えてから、名前に任せると言えば軽くお辞儀をして礼を言った。
そんな、名前が言い出した言葉であの子が何かと携帯で写真を撮っていた姿を思い出した。今日はやけに昔の記憶が思い出されるな、とまだ暗い空をぼんやりと見つめた。
ふと、隣を見ればわくわくしたような表情で名前は空を見つめていた。その姿が珍しくてつい、フッ…と小さな笑いが零れる。そして、パッと顔を明るくさせた途端に、ひゅ〜という音が聞こえ、大きな音と共に一輪の花が夜空に煌びやかに咲いた。
終始、名前が笑顔だったことが、今年の夏祭りで一番記憶に残った。

Summer festival―Accidental resemblance―85775:38:58

(名前、君は似すぎている。)

prev / next
bkm

Back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -