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Work and home―Atmosphre―
俺は中学校の国語教師だ。いつも、8時25分から5分ほど行われる職員会議の15分前に通勤していて、今日とて変わらず8時10分には学校に着いていた。しかし、今までと違うことが一つあった。携帯電話がガイノイド―名前―だということだ。名前を連れて職員室に入れば、同期の英語教師である苗田さんとすれ違い、声をかけられた。
「柳さんも、買ったんですねえ。ガイノイド」
相変わらず、大きいつけまつげと濃いアイシャドーで化粧された目をパチパチさせて、媚びるような声で話す苗田さん。正直、この人は苦手だった。
「ああ、そうだ」
「夏岸さんも買ったそうですよー」
「そうか」
「彼女ができるまで!とか言ってましたけどねえ」
そして、クスクスと笑いながら、自分の机の方に歩いていった。横で名前が苗田さんの背中をじっと見つめていたので、どうかしたかと聞けば首を振って何でもありませんと答えた。
それから25分になり、朝の職員会議が始まった。今日の報告は給食感謝週間に入ったことと、近くのスーパーで万引きが多発していることだった。
会議が終わり、教室へ向かう準備をしていると名前が声をかけてきた。
「私はここにいればよろしいのですか?」
「ああ、そうしてくれ」
職員の全員に学校より普通の携帯電話が支給されており、何か起こったときはそれで連絡を取らなければいけないということになっていた。自分の携帯はマナーモードにしてポケットにいれるか、鞄の中にしまっておかなればならないが、ガイノイドを校内や教室で側に置いておくわけにもいかないので必然的にここで待機ということになる。
人造人間とはいえ、本来は携帯。多少の心配はあるが、危険時にはそれなりの対処をするようになっているみたいなので、ガイノイドを信じてここにいてもらうことにした。
「了解しました。お仕事、頑張ってくださいね」
「フッ、ありがとう」
微笑んで礼を言うと、その光景を苗田さんや他の教師たちが珍しいと言いたげな顔で見ていた。そのことには気付いていたし、理由も勿論知っている。
*****
今日は放課後の職員会議がなかったのでそれなりに早い時間には家に帰っていた。そして、帰宅してから名前と二人で夕飯を作っていると、急にこちらを見てきた。
「…仕事場と家では雰囲気が変わりますね」
「それは、仕事だからな」
「いや、別の何かもある気がします。仕事場の人への態度が些か冷めていたように思えたので」
「……当分は恋人を作る気はないのだ。だから、あまり愛嬌を振りまきたくない」
そう言えば、納得したような顔で名前は頷いた。
「確かに、電話帳にも仕事場の人のアドレスはあまり入っていませんね」
「交換しようと言われたがな」
特に苗田さんに、と続けながら苦笑すると、話し方に特徴がある厚化粧の人ですね、と返すものだからつい笑いを零した。
「フッ…そうだ。よく覚えているな」
言った直後に機械だから見たものは全て覚えていて当然かと思ったが、次の言葉を聞いて違う納得をした。
「印象が強かったので」
見たもの全てがしっかり記憶にあるとしても、強く心に残ったものはそれはそれで記憶に残るのだろう。
「まあ、分からなくもないな」
それから二人で夕飯を食べたのだった。

Work and home―Atmosphre―87543:42:34

(まるで、ヒトのようになってきている。)

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