One second of eternity. | ナノ

Initialsation―Name―
流行の最先端といえようアンドロイド(ガイノイド)を購入しようと考えたのは、つい昨夜まで使っていた携帯電話が近々に故障してしまうと予想した八日前のことだ。まあ、六年も使っていれば壊れてしまうのも無理はないだろう。今回も同様に普通の携帯電話を購入しようかと悩んだが、アンドロイド(ガイノイド)に興味があったのでそちらにしてみた。今時、携帯ショップなどないので、カタログで見た後にインターネットで取り寄せた。
それが無事に届き、初期設定を行おうと取扱説明書を読んだのはいいが、初めに必ずしなければならない"電源ボタンを押して電源を入れる"という動作に多少の躊躇いがあり、俺は行動できずにいた。
この携帯は人の形をしていて、俺が購入したのは女性型のガイノイドのほうの携帯電話だ。電源ボタンは背中にあるらしく、服を脱がさなければ電源が入れられないということなのである。これで理解していただけただろうが、服を脱がすという行為に躊躇いがあるのだ。人造人間とはいえ、起きていない女の服を脱がすのは憚られる。
「…………」
しかしながら、電源を入れないことには何もできないので、罪悪感に苛まれながらも白地のワンピースのファスナーを下ろした。電源を入れたらすぐに服を元に戻し、ガイノイドと向き合った。
「初めまして。初期設定を行いますので、私が指示をした順に入力していってください」
電子音に聞こえないその声が口から出た。そして、彼女が手を広げればその上に光のスクリーンが現れ、名前設定の画面が表示された。
「まず、あなた様のお名前を入力してください」
光で表示されたキーボードで『柳蓮二』と打ち込んで決定を押すと、彼女は綺麗にお辞儀をし、挨拶をした。
「柳蓮二様ですね。これから9年と23時間54分よろしくお願いします。」
「ああ、よろしく」
それからも生年月日や色々な機能の設定を行った。人の姿をした携帯はすぐには慣れないであろうが、そのうち普通となるだろう。
「呼び名がほしいな…」
そう呟けば、無表情で機種名を答えられた。機械だと判っていながらもそのような表情をずっとされていると些か寂しいものだ。カタログには表情が変わると書いてあったが、過ごしていくうちに変わっていくのだろうか。
「…名前。君の名前は今日から名前だ」
自分の好きな名前を口にすれば、彼女の容姿に合っている気がして嬉しくなった。
「名前ですね。了解しました。」
「それと、俺のことは蓮二でいい」
そう言えば、ようやく少し眉をひそめ、首を横に振った。
「しかし、主人の名前を呼び捨てにするなど…」
「この説明書には名前の呼び方を好きなように設定できると書かれていたが間違いだったか?」
すると、はっとしたような顔をして首をまた横に振った。思いの外、表情をころころ変えるので安心した。これなら日常会話でも楽しい話題なら笑ってくれるかもしれない。
「では、蓮二とお呼びいたします」
また無表情でそう答えた彼女を見れば、カタログに書いてあった文字を思い出した。
『性格タイプ:真面目』
他のタイプにしていれば、返答が異なっているのだろう。もしかすると表情も違ってくるのかもしれない。しかし、容姿も機種によって様々だったので、彼女にして後悔はしていない。むしろ"名前"という名前が一番似合うのはきっと彼女なので彼女にして良かったと思っている。

Initialsation―Name―87599:39:27

(君を選んで良かった。名前…。)

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