One second of eternity. | ナノ

Gynoid―Love―
雨がしとしとと降る音を聞きながら、読書をしていた。しばらく読み進め、きりの良いところで本を閉じて窓の方に視線を向ければ、何か憂いを含んだような面持ちで名前は外を眺めており、気になった俺は呼びかけながら立ち寄った。
「名前、何を見ているんだ?」
「あの二人です」
名前が指した方向には、相合傘をした二人の男女が仲良く歩いていた。些か遠いので両方を人間と呼んでいいのかは分からないが、かなりの確率でアンドロイド(ガイノイド)ではないだろう。
「…恋人同士のようだな」
と言えば、名前が俯いた。髪で隠れてしまって表情はあまり見えないものも、ひどく悲しげな顔をしているのだろう。そんな彼女が弱弱しく呟いた。
「……アンドロイドやガイノイドを持つ人が、少なくなりましたね…」
というのは、若者に絶大な人気を博していたアンドロイド(ガイノイド)が流行から外れてきており、時代の流れとともに過ぎ去りつつあるのだ。今時、アンドロイドもしくはガイノイドを連れていれば「まだ、持っていたのですね」と言われる。俺も、出張の時にその場で会った人にはかなりの確率で言われるものだ。
最近のトレンドは一昔前にも流行ったものではあるが、コンパクトにされたグッズで、何から何まで小さくなってきている。そんなご時世でアンドロイド(ガイノイド)が使われなくなってしまうのは当然とも言える。小人型でさえもちらほら見かける、というぐらいである。
「…俺は、前に言ったように名前を最期まで側に置くぞ」
ありがとうございますと言いながら頭を下げた名前を抱きしめる。優しく頭を撫でてやると、名前も俺の体に手を回した。そんな彼女が愛おしくて、愛おしくて、自分でもおかしいと思った。彼女は名前ではない。ましてや人間でもないというのに、俺は愛してしまった。重ねるだけで留まると自分で決めたはずが、彼女へ想いは止まらなかった。
「…名前、愛している」
「しかし、私は…」
「わかっているさ。俺は人間でお前は人造人間。この気持ちがつながることは決してないが、名前が好きなんだ」
「…………」
それ以上彼女は何も言わなかったが、俺の腕の中から抜け出そうとしたり嫌な顔をしたりすることはなかった。
俺はやはり愚かなのだろうか。…いや、愚問か。ガイノイドに愛を語ったところで確かなものなど何もないというのに、俺は彼女をこの腕で抱き寄せ、愛の言葉をかけた。自分でも愚かだということをわかっているはずだ。きっと、このような自分を信じたくないのだ。
他人に知られれば馬鹿にされるのであろう。それが知人ならば心配されるのかもしれない。昔の自分ならば何と言うのだろう。
しかし、俺は至って正気のつもりでいる。誰が何と言おうと狂ってもいないし、名前を愛することをやめたりはしない。

Gynoid―Love―8759:07:35

(一年。それが彼女といられる時間だ。)

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