一輪花 | ナノ


  08


「それで、龍馬は戦えないというわけか」

一時的に龍馬の視力が低下していると誤魔化し皆に説明をする瞬に、帯刀は腕を組んでちらりと龍馬の方に視線を流した。
腕の次は目ともなれば、災難続きだと嘆息する。

「何、後方支援ってやつだ。連鎖術にゃしっかり参加するぜ」
「それまでやらないつもりだったら、ここに置いていくところだよ。それにしても君は本当、いつも肝心なときに怪我をするね。迂闊すぎるとは思わないの?」
「一番身に沁みているのは龍馬さんだと思いますよ、小松さん。それよりも今日の戦列を考え直さなければいけませんね。ゆき、どうしますか?」

龍馬を抜いた戦列。ぽかりと開いた穴を埋めるべく、皆が真剣に話し合いを始めた。
それを見ながら瞬は僅かに眉根を寄せる。
全ては自分が招いたこと。
龍馬には何一つ非はないというのに、それでも龍馬は瞬のことを黙っていてくれている。

終わらせよう、と強く思う。勝って、必ず生き延びようと。
五行の力が正しく巡れば、白龍も力を取り戻し、これ以上ゆきが命を削ることはない。
龍馬もこれ以上は何も奪われずに済むはずだ。
しかし、この戦いで必ずゆきは神子として力を使うだろう。
そのたびに龍馬の何かがなくなっていく。
辛うじて見えているであろう左目も、戦いが終われば見えなくなっている可能性が高い。
目だけではなく、聴覚も、触覚も、何もかも。
一つも残らず奪われる可能性だってあるのだ。

昨夜抱かれたときに、龍馬は戦いの後に瞬に言いたいことがあると告げた。
だから必ず生き残るのだと。
それに瞬は応と答えた。
応えたからには龍馬も瞬も生きなければならない。

「……それでいこう。俺に異論はない」
「私もないよ……。ゆきちゃん、必ずキミを守ってみせるからね……」

話し合いも結論が出て、戦列も決まった。
後は戦いに挑むだけだ。
龍馬の分まで戦って、ゆきを守り抜き、生き残る。
それが二人の約束だ。
瞬に課せられた役目は後方の守りを固め、龍馬とともにゆきの補佐に当たること。
ゆきの隣で戦えないのは星の一族として大いに不満だったが、ゆきの両隣には瞬ではない八葉が立っている。
彼らの力を信じ、瞬はその不満を飲み込んだ。

「皆、私に力を貸してね。絶対に燭龍を倒して、瞬兄も祟くんも世界も守ってみせるから!」
「当たり前でしょ、そのために私たちがいるのだから」
「ゆきさんのために、僕はこの刀を振るいます。行きましょう」
「……行っておいで、神子殿」

砂時計が光り、時空を繋ぐ穴が広がる。
次々に身を投じていく仲間を見、瞬は最後にリンドウへと視線を移した。
いつも通り飄々とした顔をしているが、目の奥は少しだけ寂しさを灯しているように、瞬の目には見える。

(……星の一族、か)

やり方は違えど、リンドウも瞬も同じ一族の者としてゆきを守り続けてきた。
最後の局面で神子を傍で守れないのは、身を切られるよりもつらいことだろう。

「瞬、行こうぜ」

龍馬の手が瞬の手を握る。
時空を越えることで龍馬の目はまた見えなくなったのかもしれない。

「……ああ」
「瞬くん。一番大事なものは僕だって大事だから。君は二番目に大事なものを、大事にするといい」

背中に掛けられた声に、かっと頬が熱くなる。
そのまま龍馬の手を引いて時空の穴へと足早に入っていく瞬の後姿に、リンドウは目に掛かる前髪を指先で摘んで唇を歪めた。
八葉でもないリンドウには時空を越えることは出来ない。
同じ星の一族でありながら八葉に選ばれた瞬が羨ましくもあり、哀れでもある。

一族の者は誰もが運命に翻弄される。神子が現れれば神子のために忠義を尽くし、現れなければいつか来る日のために文献を残し、準備を整える。
それがリンドウの知る星の一族であり、自分自身でもあった。
先祖が残した文献を何度も何度も読み、ぼろぼろになるまで読み込んで、ずっと持ち歩くほどに。
口では何を言ったとしても、リンドウほど星の一族という鎖に雁字搦めになっている者など、一族の中にはいないだろう。

「……神子を守れぬのが悔しいか、リンドウ」

振り向けば、小栗が覆面を外しながらリンドウを見ていた。

「まさか。清々してるよ。僕の役目はここで終わりだからね」
「そのわりには随分酷い顔をしているようだが」
「……何が言いたいのさ、慶くん」

じろりと睨むと、その視線を受けて小栗はふっと笑った。

「さて、な」

背中を押されているのだろうか、とリンドウは思う。
意地悪く笑う小栗にはきっとリンドウの取る行動など見えているに違いない。
八葉以外は時空を越えることが出来ないけれど、その時空を司る神であればそれを捻じ曲げることも造作ないはず。
神子のためと言えばきっとあの孤独な神はリンドウの願いを聞き届けてくれるだろう。
その結果、また時空の狭間で一人幾千もの時を彷徨うことになるとしても。

「あーあ。嫌になっちゃうなあ、もう。慶くんは意地悪だし、僕はこの様だし」

子供っぽい愚痴を零しながらも表情だけは年相応に引き締める。星の一族の最後の役目くらいは、自ら望んでやってやろう、と。

「行ってくるよ、慶くん。帰ったら休み三日はもらうから」
「休む暇などあると思うのか?これから忙しくなるばかりだ……さっさと行って、さっさと帰ってこい」
「……人使いの荒さ、いい加減直した方がいいよ」

じゃあね、とひらひら手を振るリンドウを見送り、小栗は再び覆面を身につける。
ざり、と足元を踏み締め、ただそれを見送ることしか出来ない自分に唇を歪めた。


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