ゴミ箱 | ナノ


▽ ふくゆきボツ原稿


 美しいものは魔を呼び込む。魔は不浄を呼び、穢れを為す。それが生きている者であろうと、死したる者であろうと、果ては無機物であろうと変わらない。
 だが、それを罪と呼んでいいかどうかを、小松は考えあぐねている。





 粉骨砕身したと言っても過言ではない薩長同盟が、無事に締結したのはその少し前になる。その後すぐに体調を崩したゆきの大事を取って日光行きを延期し、今は八葉各々が思い残すことのないように自由な時間を取っていた。
 その中で、ゆきと桜智だけは早く日光へ行こうと急かしてきたのだが、当然受け入れることの出来ない申し出だった。そこまで急ぐ理由を問うても口を噤んでしまうのだから尚更だ。反論が出来ない上、ゆきのこととなると過保護になる瞬に一蹴され、ゆきは休養を余儀なくされている。
 何か事情があるのだろう―――小松や龍馬はそう察しているが、だからといって理由を聞かなければ賛同の仕様がない。ゆきの具合を見ながら再三桜智に尋ねるものの、だんまりを決め込まれてしまい話にならなかった。
 ゆきが完全に復調するまで、恐らく後数日は掛かるだろう。瞬の見解を述べればつらそうに眉目を寄せる桜智に、小松は溜息を零した。
「どうして理由を言えないの。それではどうしてあげることも出来ないでしょ」
 布団に座したゆきと枕元に座っている桜智を前に、小松は胡坐を崩して膝の上に肘を置き、手の甲に顎を乗せた。話し合いはいつまで経っても平行線で一向に終着点に辿り着きそうもない。
「そうだぜ、お嬢、夢の屋。理由があるなら教えてくれないか?俺だって協力出来ることがあるなら力になりたいしな」
 龍馬の言葉に、ゆきが申し訳なさそうに俯いた。その様子を見て桜智はただ力なく首を横に振る。二人だけの秘密と言えば可愛らしいが、ここまで口を閉ざすとなると重々しい事情があるのではないかと邪推したくなってしまう。
「…俺たちじゃ頼りないか?」
 口許に指を当て、龍馬が真摯な声を出した。普段が明朗快活なだけに、こういう声音は本当に珍しい。
「そういうわけじゃないんです…ただ、どうしても理由はお話出来ません。ごめんなさい」
「ゆきちゃん……。あの、ゆきちゃんのせいではなくて、これは私のせいだから…。どうか、ゆきちゃんを責めないで欲しい…」
「それは違うよ、桜智さん。誰のせいでもないもの」
 凛とした、ゆきらしからぬ強い語調に場の空気が引き締まる。こんなにも強い少女だっただろうかと目を細めた小松の前で、ゆきは桜智の手をそっと握り締めた。
 途端に甘くなる空気は二人の仲が思いもよらぬ方向で進展していることを示している。自然、溜息が口をついて出たのは、決して小松のせいではない。
「私なら大丈夫だから」
 その言葉に途端に頬を染めた桜智に、龍馬の視線が泳ぐ。助けを求めるように小松に向けられたところで小松とてどうすることも出来ない。


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本にしようとしたけどあまりにもご家老すぎて止めた遺物。

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