ゴミ箱 | ナノ


▽ 倹約家が倹約出来ない理由(りょましゅん)


えあこんは、電気代とやらが掛かるから使ってはいけないと瞬にきつく言われている。
だからこの暑さをしのぐには外からの風と、扇子か団扇、そして冷ややかな視線を我慢しながらの扇風機ということになる。
しかしどれをとっても風は生温く、ばたばたと扇いでも手首を動かした分だけ暑くなるだけで。
こそこそとつけた扇風機の風は幾分か涼しくしてくれたが、それでも風の温度が下がるわけでは当然ない。

「あー……あちぃ……あづー…」

寒けりゃ着ればいい、とは思う。
だが暑けりゃ脱げばいい、というのは限界がある。
下穿き一丁になってしまえばそれまでで、肌を引っぺがすわけにもいかんし、暑いもんは暑い。
だらだらと流れる汗を手ぬぐいで拭い、俺はばたんと仰向けに倒れ込んだ。

「おい、龍馬。床が汗で汚れる。寝るな」

足癖悪く蹴られでもすればまだ反応の仕様があるが、冷ややかに見下ろしてくる瞬に俺が出来ることと言えば身体を起こすことだけだ。

「えあこん、えあこんつけようぜ、瞬。今日はいかん、ほんに暑い!」
「暑がっているのはお前だけだ。文句があるなら図書館にでも行って来い」

雑巾を投げつけて背を向けた瞬は、確かに暑いとは一言も口にしていない。
けれど珍しく結わいてある後ろ髪は暑い証拠じゃないか。
せっせと汗でべっとりした床を拭き、その雑巾片手に瞬の背後にそっと忍び寄る。
間近で見る白い項にはうっすらと汗。
額だって長い前髪を上げればきっと汗ばんでいるはずだ。

「瞬、えあこんがだめなら海でも行かんか。水でも浴びりゃあちっとは涼しくなるだろ」
「っ……!気配を隠して近づくな!海など誰が行くか」
「ほらあれ、カキ氷。あれもいいな。海であれを食うのは格別だ」
「人の話を聞け、龍馬!」
「そうカッカしなさんなって。余計に暑くなっちまう」

つう、とこめかみを伝う、瞬の汗。
唇を寄せてぺろりと舐めれば塩辛い海の味がした。
白くて冷たそうな肌だって、触れたら俺の舌より熱くて。
ああ夏だなあ、なんて実感してしまった俺の風流な思いを他所に、瞬の拳が俺の鳩尾に向かって思い切り叩き込まれた。

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