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▽ いつもの。(桜智×帯刀)


寝惚けたまま交わした今朝の接吻で煽られた、なんて思いたくもないけれど。
夜になって褥に身を横たえても腰の辺りに重だるい感覚が燻っていた。
男ならではの、俗に言う「溜まっている」感覚に、どうにも睡魔が退散しているようだ。
身体的にどうすることも出来ないものとはいえ、厄介だなと息を吐いた。

だが、こうなっては原因を解消するより他はない。
年を取ってからは格段に回数が減ったとはいえ、自慰に耽り快楽を得るという即物的な行動が己の矜持を傷つけるのは毎回のことだ。
別に行為自体を否定しているわけではなく、単に、そういう欲求に振り回されている自分が嫌だというだけの話で、気持ちいいことが嫌いなわけではない。
寧ろ、好きな方ではある。

だからなるべくこういうことは相手がいる状態で、と思ってはいるけれど、こんな刻限から外を出歩き相手を探すなんて無様且つ非合理なことはしたくない。
それに―――一応、相手はいるのだ。
認めるのは実に癪だが、こうなった原因でもある相手が。
呼べばすぐ来るところに。

「……桜智。どうせそこにいるのでしょ。入ってきなさい」

先程から全く気配を隠しきれていない相手、桜智に声を掛ければ、すっと襖が滑って美丈夫が現れる。
薄い青の夜着に身を包んだ桜智は、額に手を当てて困惑の表情を浮かべたまま私を見つめていた。
どうして招き入れたのか、私の意図を掴めずにいるのだろう。
眼鏡を外した状態でははっきりとは見えないが、その目許は薄紅に染まっているようだった。

「あ、あの…小松さん……」
「襖を閉めて。それからもっと近くに来なさい。眼鏡を外しているのだから、君の顔がぼやけて実に気持ちが悪い」
「…ああ、少し待ってて。眼鏡はいつもの場所かい?」
「間違えて踏み潰しでもしたら困るからね。いつもの場所だよ」

襖を静かに閉めてから、桜智は私の眼鏡を文机の引き出しから取り出して私の横に膝をついた。
私が言いたいことをきちんと察するほどには桜智は私のことを知っている。
眼鏡を取れと言ったわけでもないのに、言葉の奥を読み取るのは大したものだ。
眼鏡の収納場所についても同じことが言えるけれど。

「小松さん…眠れないのかい?」

眼鏡を差し出して桜智が心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

「今日も忙しかったから…疲れすぎていて、逆に眠れないのかもしれないね…」

静かな声は本当に私を案じているというのに、遠慮がちに触れてくる指先に身体が反応してしまった。
ふわ、と上っていく体温。
悔しいことに粟立つ肌。
変化に気づいた桜智がきょとんと目を丸くする。
その原因がまさか私が欲情しているせいだとはさすがに知る由もないが。
私だってそんな事実、認めたくはない。
認めたくはないけれど、身体が熱いのだから仕方がないでしょ―――言い訳を、胸の内で呟いた。

「桜智、」
「こ、まつ、さん?」

腕を取り、弱い力で引き寄せる。
呆気なく私の上に覆い被さった桜智の目は美しい蒼で、まだその奥には欲望の気配など微塵もない。

「眠れないから、少し私に付き合いなさい」

首の後ろに回した手に力を入れずとも桜智の顔は徐々に私に向かって落ちてくる。
互いに僅かに開いた唇は吐息を混じらせながら重なり、どちらともなく舌が絡まった。
飢えた獣に餌を与えた感は否めないが、私の顔の横に片手をつき、左手を夜着の袷から忍ばせてきた桜智は乗り気ではあれどまだ戸惑いの中だ。
桜智の頬を撫でてから折角掛けた眼鏡を外し、敷布の上に転がすと、一層接吻が深くなり意識が徐々に深みへと沈んでいく。
燻っていたものが燃え盛り出したのは何も私だけではない。
口腔を思うままに暴れている桜智の舌に甘く歯を立てれば、戸惑っていたことすら忘れて桜智の両腕が私の身体を強く抱き締めた。

「小松さん…っ」

意趣返しと言わんばかりに桜智の舌が唇を舐め、顎へと伝うように落ちていく。
肩や鎖骨を撫でていた手は今や私の胸の感じる場所を的確に刺激していた。
摘まれればビリと何かが背筋を駆け上がる。
捏ねられれば腰がもぞりと動いてしまう。
鈍いのに、身体のあちこちに繋がっている、そんな性感を生む場所を、桜智が思うままに弄っているのはやはり悔しい。

「がっつき、すぎ…でしょ……」

そう言いながら首の裏から手を離し、着物の裾を割って桜智の熱に触れる。
がっついているのは桜智じゃない、私だ。
触れたそこがあまりにも硬くて、熱いものだから、ぞくんと身体の奥の奥が求めるように蠢いた。

私をこんな身体にしたのはこの男で、その熱も感触も、太さも長さも教え込んだのはやはり桜智で。
それが齎す痛みと快楽を忘れられないようにしたのも全部、桜智で。
責任を取れと言わんばかりに私は桜智のそれを出来るだけいやらしい手つきで下帯越しにゆるりと撫で上げた。

「っは…、だめ、だよ…小松さん……」
「何がだめ、なの…こんなにしておいて……」
「そんな風にされたら…その、歯止めが、」
「歯止め、ね…そんなのもう、今更でしょ…ほら」

ぐ、と先端を親指で押せば、布がじわりと湿り気を帯びる。
手の中で震える桜智の熱は私に触れて口付けただけでもうこんな有様だ。
私だって既に兆している。
濡れてすらいるかもしれない。
互いしか相手がいないのだから、同じように桜智だって「溜まっている」はずで、だったら限界など知れているとは思わないのだろうか、この男は。

「ぅあ」
「…本当、今更すぎるよ」

脚を割る桜智の膝小僧に押し付けた私の熱に、桜智の目の色が薄く赤味を帯びたようになり、そして。

「後悔、しても知らないよ…帯刀さん」

やけに艶のある掠れ声が、私の心臓の動きを掻き乱した。




結果、噛り付かれた肩の皮膚にくっきりと残った歯型や翌日立たなくなった足腰に関しては苦情を堪えることになったわけだけれど。

(まあ、気持ちもよかったことだし、すっきりしたし、これはこれでよかったかな)

妙に血色と機嫌のいい桜智を見ていると頭の一つくらいは叩いてやりたくもなる衝動に駆られ、私は鼻歌を歌いながら身の回りの世話をする桜智の頭を思い切り叩いてやった―――薙刀の柄で。


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朝寝惚けたご家老が福地さんとちゅっちゅしていたら、という某方との会話から派生したもの。

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