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▽ 拠り所(桜智×帯刀)


癖のない真っ直ぐな髪が敷布に線を描くように広がっている。
どうしてこんなことになったのか、一体自分の身に何が起こったのかいまいち理解は出来ていないが、艶めいた緑の髪はまるで美しい絵画のようだった。
綺麗だと思うことも久しくなかった福地の心にも響いてくる、柔らかな線。
絹糸を色鮮やかに染めて散らせばこのような絵が出来上がるだろうか。
福地はほうと感嘆の息を零してその光景を見下ろした。

「……あのね、桜智。君が一体何をしたいのか皆目検討もつかないけど……男に組み敷かれる趣味も謂れも私にはないと思うのだけどね」

美しい線の中心を飾る、整った美貌が呆れたような声を上げる。
ともすれば鋭すぎる視線はすでに知己の仲であるがゆえに尖ってはいない。
戦いを経てお互いにそれなりの親睦は深めたはずの相手―――小松は、幾分か怪訝そうに目を細めて福地を見上げていた。

「あの……私にも、趣味も謂れもない……と思うよ」
「だったらどうして私を押し倒してるの?おかしいでしょ、どう考えても」
「ああ……おかしいね」

そう、おかしいのだ。
相手が恋焦がれていた少女、ゆきであるならば恋情が積もりに積もった結果の暴走だと言えなくもない。
ゆきに似ているわけでもなく、そもそも性別すら違うというのに、どうして自分は小松を押し倒し、尚且つ綺麗だと思って眺めているのだろうか。
首を傾げながら小松を見るも、敷布に模様を描く長い髪はやはり綺麗で、福地の感性をうずうずと刺激する。
そういう感覚もゆきが元の世界に帰ってしまってからは久しぶりだった。

「分かっているなら退きなさい。実力行使で殴り飛ばすのはごめんだよ。手が痛くなるから」
「ああ、うん……、」

嫌ならそうしてでも逃げてくれればいいのに、と思った直後、ふと言葉を切って福地はもう一度小松の顔をまじまじと見つめた。
なぜか福地を拒まない、薩摩藩家老を。
小松は言葉の冷たさとは逆に優しい心を持ち合わせていることを福地は知っている。
私情を捨てて人を傷つける選択をすることも出来るが、敵味方関係なく人を思い遣れるだけの度量がある男だ。
福地は小松の心の中に入れてもらえているのだろう。
傷つけられることに慣れた鬼だと知っているから、小松は福地を傷つけたりはしない。
必要に迫られない限りは、恐らく絶対に。

「……そう…だった。」

対の存在。
福地に残されたただひとりの「共有」出来るひと。
白虎の加護を受けているという事実は福地と小松がこの世を去るまで不変だ。

「………ゆきちゃんが、私の命だと思っていたけれど…」
「桜智?」
「あなたも私の命…かもしれないね……」

拠り所を見つけて心が甘く騒ぐ。
ゆきによって色をつけられた世界を、また灰色に戻りかけていた世界を、小松という存在が留めてくれている気がした。

「……何の冗談?私は君の命になるつもりはないし、第一、私と君の命は同等ではないでしょ」
「小松さんの、言うとおりだよ。鬼の命と人間の命は同じじゃない……」
「あのね……一体どうなったらそういう風に話が飛躍するの。本当は頭の回転が速いくせに」

はあ、と小松がため息を吐く。
綺麗な髪がするすると敷布の上を滑り、もったいないと思っている間に小松は上体を起こして福地の身体を面倒そうに押しやってしまった。
敷布の上に座って向かい合わせで顔を見合わせる。
少しだけ乱れた髪はそれでもやはり綺麗だった。

「私の命は私のもので、桜智の命は桜智のものでしょ。鬼とか人間とか本当…くだらない。今から諸外国に向けて開いていくこの国に、そんな考えはあってはならないものだよ」
「小松さん……」
「桜智、私は君の能力を存外買っている。だから私のために働きなさい。私はこの国を動かして平らかな世を作る―――異人も鬼も武士も百姓も、関係のない平らかな国をね」

強い口調。
命じられてぞくりと背中に何かが走った。
必要とされることが酷く嬉しい。
鬼だと忌み嫌われた過去が嘘のようだ。

「私の力が、役に立つのなら……この力、小松さんのために使うよ…」

ふわ、と蒼い瞳を細めて、福地は蕩けるような顔で笑った。
芽生えた感情がゆきを思う気持ちに極めて近いことには未だ気づいてはいない。

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