サトウ×チナミ
えろいことばっかりしてる話なので、ぬるいですが義務教育終了していない方の閲覧はご遠慮ください。
ハッピーエンド予定ですが、最初の方は全然甘くないです。注意。





















中を穿てば、細い喉が風音を鳴らした。

行灯の光だけが、夜の闇に包まれたその一室の中でぽつりとその存在を主張する。
僅かに照らし出された人影はふたつ。部屋に響くのは、淫猥な水音と肌をぶつけ合う高い衝撃音。それと、時折かすかに漏れる、うめき声にも似た吐息。

情を交わしているはずの二人の間には、言葉どころか悦の混じる愛声のひとつも無かった。そこにあるべきの情などは傍から見ること叶わず、その空虚さはお互い理解しているはずだというのに。

どうしてこうなってしまったのか。そんな疑問を脳裏によぎらせたのは、もうひとりを組み敷いている長身の男だった。その青い目と金色の髪の毛から、異人であることはすぐに解る。男は自身の下で弱弱しく乱れる少年を見下ろしながら、ぼんやりと事の顛末に思いを馳せる。男と少年が、このような行為を一度ならず繰り返す理由を。



男の名はアーネスト・サトウ。世界を配下に治めつつある大英帝国から日本へ派遣された、外交官兼通訳官。
少年の名はチナミ。日本の明日を憂う天狗党の若き頭領であり、外国の介入を良しとしない派閥の一端を担う者。

牽制・敵対し合うことはあれど手を取り合うことなど本来無かったろう二人を結んだのは、龍神の神子と呼ばれる少女の存在と、互いに課せられた八葉という使命。勿論すぐに打ち解けた訳ではないが、少しずつお互いのことを知り、口にはしないものの仲間だという認識すら抱くようになった。
その均衡が崩されたのは、突然のこと。

まず端的に言ってしまえば、サトウはチナミを好いていた。それがどういった意味合いでなのか、その時は本人さえ深く考えていなかったが。そしてサトウの性質というのは所謂苛めっ子体質というものであり、つまりは気に入った者ほどからかいたくなる性分。その餌食となるチナミの直情的で負けず嫌いな面も相まって、二人の間には喧嘩とも言えないような些細ないざこざがうるさく頻繁に起こるのだった。

しかしその日は、やけに静かで。普段は女子供などに向けられることの多いサトウの紳士的な態度が、他の八葉と共にチナミにも向けられ、その違和感たるや当人以外にも「気持ち悪い」と評される程。そんな中で都がぼそりと「具合でも悪いんじゃないのか」と口にしたのを耳にしたチナミは、その夜寝る用意を終えかけたときにそれをふと思い出して。どうにも落ち着かないのを抑えることが出来ず、ふらりとサトウの部屋を訪ねたのだった。あんな態度だとこちらの調子が狂うんだ、などと、誰にでもない言い訳をぐるぐると考えながら。

「チナミだ。夜分に失礼する。サトウ、今日はどうし…」

不躾だとは思いつつもサトウの返事を待つことなく戸を引いたチナミは、その目に飛び込んできたサトウの姿に目を奪われた。突然の来訪者に目を丸くして振り向いた彼はやはりもう寝るつもりだったようで、その姿は初めて見る和装だったからだ。ひとつ間を置きチナミが自分の格好に驚いているのだと気付いたサトウは、ばつが悪そうに眉を寄せた。

「寝巻き代わりにさせて頂いているのですよ。趣があって、悪くはないでしょう?」
「そう、か。」

サトウがこの国の文化を認めているという実感に、無意識のうち気分を良くしていたのかもしれない。なんだかチナミは無性に、サトウに何かあったというなら励ましてやりたいような気分になって、その衝動のままサトウの正面に腰を下ろす。

「今日、何かあったのか?その…調子が悪いように、見えたんだが。」

心配げに下から見上げてくるチナミはサトウと同じく寝巻き姿で、衿から覗く白い首筋と鎖骨がサトウにはやけに目についた。それが煩わしくて、サトウは目を逸らしながら言葉を返す。

「別にどうということもありませんよ。」
「全く何もないということはないだろう、今日のお前はあからさまにおかしかった。」
「失礼な人ですね。いつも通りだと言っているでしょう。」

正直に話すならば、体調が優れなかったのは確かだ。そのせいでチナミらをからかって遊ぶ気力も無かったのだと言える。しかしだからといってそれを人に説明したところで面倒な同情程度のものしか得られるとは思えないし、そんな事態は遠慮したいとも思う。

そんなサトウの考えも知らずに、やけに食いついてくるチナミの白い肌がちかちかと目に痛かった。

「何なんですか、ここで私の体調が悪かったとして、あなたが何をしてくれるって言うんですか。」
「それ、は。看病くらいはしてやれるつもりだ。」
「看病。それは心強いですね?」

苛立っていたのだ。重い体にも、目に付く肢体にも。
誰にでもない言い訳をして、気がつけばサトウは、傍らに用意していた褥にチナミを押し倒していた。

「何を、」
「看病してくれると言ったじゃないですか。私の体調不良の原因は多分欲求不満ですね。ならばお相手くらいしてくれるんでしょう?」

言っていることが支離滅裂だと、サトウの頭の片隅に追いやられた冷静な思考が眉をひそめたように思えた。チナミは固まったように動かず、ただその瞳だけが何かを懇願するようにサトウを見上げていた。それに見ないふりをして、サトウの指がチナミの顎から首筋を伝い、袷の中に滑り込む。びくり、と跳ねた身体に、サトウの唇が弧を描いた。

「Lets spend a good night.」

囁かれたその言葉が、チナミの耳に届いたのかはわからない。ただその肌に触れ、唇を落とす度に感じる充足感に、ずっとこうしたかったのだと理解した。どこか欠けた行為であることには、目を背けたまま。
そうして夜は深まっていく。チナミはサトウの指が後孔へ伸びたときに、ようやく言葉を発した。

「…こういうことは、想いを寄せ合う者どうしが、することだ。」
「ここまで抵抗という抵抗もしなかったあなたがそれを言うんですか?」
「貴殿は、俺のことが好きか…?」
「……多分、あなたと同じです。」

ずるく言い逃れたサトウに、チナミはまた口を噤んだ。微かに、うそだ、と聞こえた気がした。どちらの意味だろうと少し考えたが、どちらにしろ大差は無いようにも思えた。どちらにしろこの歪んだ関係は、最早そう簡単には直せないだろうから。そしてそんなサトウの予感は、現実になるのだが。

行為が再開されたが、チナミは微かに身じろぎ時々吐息を漏らすだけでそれ以外は口も身体も一切動かず、それゆえに抵抗する様子も受け入れた様子も見せることは無かった。いや、これこそがチナミの抵抗だったのかもしれない。その態度は結局、最後まで変わることはなかった。

その翌朝、後処理を済ませ身体や褥も綺麗にしてから眠りについたこともあり、二人だという点以外では実に普通の朝のようだった。一足早く目覚めたサトウの頭には本来あってもいい後悔など見当たらず、最低な男だ、と自らを罵ってみたりもした。チナミは、褥から這い出したサトウが身支度を整えているときに目を覚ました。いつもは早い目覚めがここまで遅くなったあたり無理をさせたんだろうと思い至り、サトウはそれに関しては心の中で謝罪した。

「おはようございます、チナミ。よく眠れましたか?」

返事はなく、ただ燃える様な色の双眸がサトウをじっと見つめた。サトウはその視線から目を逸らせないままに、何か会話の糸口は無いものかと思案する。その思案はチナミが口を開いたことにより、意味を成さなくなるのだが。

「…体調は、大丈夫なのか。」
「…ええ、おかげさまで。」
「そうか。」

そう答えたチナミの表情が切なげに見えて、だからサトウは「また調子が悪くなったら元気にしてくださいね」なんてことを言ってしまったのだと思う。その言葉にもチナミは終始無言を貫き、それだから、その日の夜またしてもサトウの部屋にやってきたチナミを見てサトウは心底驚いたのだ。
そこからはもう堕ちるように、二人は三日と空けずに情を交わすようになった。行為の最中はお互い、不自然な程に静かなまま。お互いの関係に名前をつけることさえ頑なに避け続けて。



回想を終えたサトウは我に返り、チナミが訝しげに眉を寄せてこちらを見上げているのに気がついた。失礼しました、と小さな声で囁いて、腰の抽挿に意識を戻せば、チナミの肌がうっすらと色づいた気がした。

もしも二人の性分がもっと素直だったなら、もっと違う関係になれたのかもしれなかった。
想いを通わせることも、出来たのかもしれなかった。

サトウは、おそらくチナミがもう自分のことを好いているのだろうとは思っていた。だというのにそれに気付かない素振りでいるのは彼の性分故だろうか。
全て今更だと。そう、思うのだ。それは身勝手な自己完結かもしれないとも思いはするが。
それでもやはりまだ、絶対に拒絶などされない、されるのも怖くないとは言えないので。

(今ならもう、愛しているのだと、言えるのに。)

愛している、愛している、愛している、
あのとき、チナミに「好きか」と尋ねられたあのときに伝えられていれば、と。何度思ったかしれない言葉を、呪いのように反芻する。

赤い瞳に映った自分の顔があまりに必死で、らしくない、と苦笑した。




110410

→next


→戻る




最初(5)



非公式二次創作サイト。
文章や画像の複製・転載はお止めください。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -