なまえを喜助さんの部屋に寝かせ、俺達は居間に卓袱台を囲むように座った。
「……さて、何から話そうかな」
お茶を飲んで一息つけた後、風子さんは口を開いた。
*****
私には両親がいなかった。幼い私は孤児院で育ったの。園長先生は私のお母さんで、園のみんなは友達であり家族だった。
高校生になると一人暮らしを始め、バイトもした。そのバイト先で真咲さん――一護のお母さんね――に出会った。
「よろしくね、風子ちゃん」
「よ、よろしくお願いします!」
「そんなに堅くならないで?緊張は人に伝わるんだから」
彼女はとても明るい人だった。いつもニコニコしてて、バイト先でもお客さんからも人気があった。そんな彼女に私は憧れた。
バイト先も学校も一緒だった私達はすぐに仲良くなった。私は真咲さんをお姉さんと慕い、真咲さんは私を妹と可愛がってくれた。
出会ったのは彼女だけじゃない。彼とも出会ったの。
みょうじ忠弘。なまえの父親であり、私の旦那。
彼は新任の先生だった。こう言うのもなんだけど、かっこいいんだ。ほとんどの女子から好かれてたんじゃないかって程に。
「こんにちは、高梨さん」
「………こんにちは」
私は彼が嫌いだった。いっつもニコニコしてて、鈍臭くて。見てるとイライラした。
「今日の化学は実験ですよ」
「前に聞きました」
「あ、そうでしたっけ?」
「………はぁ」
「あ、ダメですよため息なんかついちゃ。幸せが逃げちゃいますから」
嫌いだった。
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