ぞくぞくした。虚と闘ってるなまえはまさしく“あの”なまえで。身体中、ありとあらゆる細胞が叫ぶ。
なまえが欲しい、と。
「…しかし邪魔者がひい、ふう、みい…」
少し、釘を差してくるか。
大虚に傷を付けた彼を見ながら、俺はそっと地上に降り立った。
*****
「一護…あんたって凄いんだね」
「まぁな」
大きな斬魄刀(斬月というらしい)をいとも簡単に振り回す一護は、私が知ってる一護でないような気がした。
「さっ、大虚も退いたしお話でもと思いましたが……どうやら邪魔が入ったみたいっスね」
喜助さんの、低くて緊張を帯びてる声にどきりとする。そのすぐ後に知らない霊圧を感じた。
………知らない?
いや、違う。この霊圧は知ってる。
これは…。
「…久しぶりですね、浦原隊長」
「今は隊長じゃありませんよ」
「これは失礼しました。元隊長さん?」
ゆっくりと振り返ると、そこには喜助さんより少し若めの男の人が立っていた。
「誰だ!」
一護は警戒心をむき出しにして斬月を構える。それを、彼は嘲笑った。
「キミに用はないよ、黒崎一護」
「…俺を知ってるのか」
「なまえの近くにいるからね。じゃなければ興味ないよ」
「てめっ」
「よせ、一護」
ルキアが、襲い掛かろうとした一護を制する。
「あぁ、キミは朽木家の」
「…失礼しました、桐生四席」
ルキアは小さく頭を下げる。それを見た桐生と言う人は頭を振った。
「いやいや、まさか朽木家の人間に頭を下げられるなんてね。まぁこの話はいいか。それよりも…」
桐生さんは私を見る。怪しく光る瞳の奥には狂気を感じた。
「久しぶりだね、なまえ」
「……………」
「そう睨まないでよ。あの時は悪かった」
桐生さんは手を伸ばして私に触ろうとした。しかしそれは夜一さんによって叶わない。彼女が桐生さんの腕を掴んだからだ。
「やめろ、直人」
「あぁ、夜一さん。お久しぶりです」
ギリギリと掴まれている手を痛がりもせず、ただ笑ってる桐生さん。それが何とも気味が悪い。
「やだな、そんなに怖い顔をしないで下さいよ。綺麗な顔が台無しです」
「ほう、お主に褒められるとは思わなかったぞ」
「ひどいなー」
ニコニコとする桐生さんが怖くて、私は一護の後ろに隠れる。
「なまえ、そんなに怯えないでよ。ただ言いに来ただけなんだから」
キミは僕のモノだ。
その声が耳にまとわりつく。いやだいやだいやだ。気持ち悪い。
「うぇっ」
「なまえちゃんっ」
お腹に何も入っていなかったため、胃液しか出てこなかった。駆け寄ってきた織姫と一護によって背中を擦られる。
「また、僕と遊ぼう?」
やめてやめてやめて。
「あの時みたいに」
記憶がフラッシュバックする。付着する血、刀を突き刺した感触、血のにおい、色、景色。その全てが赤く染まっている。
―――なまえ、大丈夫。貴女は何も、心配しないでいいんですっ。
―――この事は、忘れるんですよ。
―――貴女は、何もしていないっ。
―――なまえ…。
意識が遠退く。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
私が貴方を刺してしまった。
お母さんから貴方を奪ってしまった。
私が
お父さんを殺してしまった。
そこで私の意識はぷつりと途切れた。
[←] [→]