「今日から1週間、テニス部のマネージャーとした体験入部をするみょうじなまえ君だ」


今日から私の体験入部が始まる。


相変わらず、周りは騒ついていた。唯一芥川くんだけが嬉しそうにニコニコとしている。


「みょうじなまえです。とりあえずよろしく」


簡単な自己紹介の後、ペコッとお辞儀をする。


「では、それぞれ練習に行ってよし」


ビシッと決める先生に、部員達は大声で返事をした。


……先生、なんですかそのポーズ。


誰も突っ込まないそれに、私は人知れず突っ込んだ。





*****





「……で、何をすればいいですか?」


手持ちぶさたになってしまった私は、先生に声をかける。


「そうだな……まずはコレをあそこまで運んでくれ」


先生に指差されたのは、ボールがぎっしり入ったカゴ2つ。それを運べばいいらしい。


「……はーい」


よいしょっとカゴを2つ持つ。意外にずっしりくる。


フラフラしつつも落とさないように慎重に運ぶ。


力仕事、嫌いなんだよね。


はぁ、と息を吐きながら運んでいく。


スーパーにあるようなカートがあれば楽なのに。そんな事を考えていた時だった。


ぐにっ


「おわっ」


足元に転がっていたボールに気付かず、見事に踏んでしまった。


転ぶっ!


前に倒れていく体。襲い掛かるであろう顔面の痛みに目を瞑っていた。


しかし、いつまで待っても襲ってこない痛みに疑問に思った私はうっすらと目を開けた。


「………あれ?」


見れば地面は遠くて。視線を下にずらせば腰の辺りに手があり、それによって倒れずにすんだのだと理解した。


「あっぶねー」


聞こえた声に後ろを見る。長髪の男子がすぐ近くにいた。


「気を付けろよな、ったく」


「……スミマセン」


体勢を立て直し、彼に向き直る。
さらさらとした黒髪が風によってなびいた。


「へー、おまえでも謝れんだ」


「これでも常識は持ち合わせていますけど」


言葉遣いは悪いけど。


そう呟けば、彼は可笑しそうに笑った。


「じゃあ、なんで敬語?」


「初対面だから、ですかね」


また、彼は笑う。


何がそんなに可笑しいのか些か疑問だ。


眉間にしわを寄せた私を見ながら彼はラケットを肩に乗せた。


「宍戸亮だ」


宍戸くん…。


あぁ、確か。


「シャイな純情少年だ」


「はっ?」


宍戸くんは目を何回もぱちくりさせる。


「あれ?違うの?芥川くんがそう言ってたからてっきり…」


「ジロー…」


宍戸くんは困ったように手で目を覆った。


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