「みょうじです」
「さっき自己紹介してただろ?それぐらい分かってる」
それから敬語いらねーよ。
そう言われ、お言葉に甘える事にした。正直あまり敬語は得意じゃないし。
「どこまで運ぶんだ?」
「大丈夫、そこまでだから。というか練習に戻らないと」
コートに目をやれば、跡部くんがこちらを見ている(睨んでるの方が正しいかも)。
私の視線を辿って跡部くんを見つけた宍戸くんは、呆れたような顔をした。
「こっち睨んでるし……とりあえず、1週間よろしくな。みょうじ」
「こちらこそよろしく」
宍戸くんも芥川くんと同じで、私を怖がる様子がない。
………なんでだろ。
「あ、ボール運ばないと」
その場に留まっていた私は我に返り、いそいそと足を運んだ。
*****
「弟の迎え、あるんじゃなかったのかよ?」
今度は先生に言われてボール拾いをしていた時だ。影が地面に現われたと思ったら後ろには跡部くんが立っていた。
「……知り合いに頼みましたけど」
事情を話したら遊子と夏梨が和希の迎えを引き受けてくれた。
後でお礼しないと。
「ふんっ、ジローと宍戸には好かれたかもしれねーが、俺は認めないぞ」
「……………」
跡部くんは生徒会長(らしい)。だから学園の問題児である私が気に食わないのだろう。
だからといって面と向かって言われるとカチンとくる。
「別に、跡部くんに好かれなくたって芥川くんがいるから」
私の友達。
チラッと芥川くんの方を見ると、彼はブンブンと手を振って応えてくれた。
「言うじゃねーか」
跡部くんは面白そうに口角を上げる。ニヤッとした笑い方。
「知ってるか?正式に入部するにはハンコが必要なんだ。顧問と部長のな」
「顧問と部長」
先生はきっと今すぐにでも押す勢いだ。しかし部長はどうだろう。
強豪男子テニス部を率いているのは、目の前の男。跡部景吾。
…………なるほど。
「跡部くんが押さなければ私はマネージャーになれないって事か」
「あぁ、そうだ」
別にそれで困るわけはない。先生があまりにもしつこくて、それを少しでも抑えるために体験入部という話を持ちかけただけだ。
「まぁ、せいぜい1週間頑張るんだな」
だから跡部くんに言われても悔しくも何ともない。
「そうだね。せいぜい1週間頑張るよ」
冷めた言い方に、跡部くんは眉間にしわを寄せた。
END
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