私の特効薬




「うー…」

痛むお腹を擦りながらソファーに横になる。この痛みは毎月慣れない。薬を飲んでも最近効いていないような気がする。

壁にかかっている時計を見ると、薬を飲んでからもう30分は経っていた。

そろそろ効いてもいい頃なんだけど。

「なんだって私はこんなに生理痛が重いのかなぁ」

はぁ、と深く息を吐いて目を瞑った。

ピンポーン

「…………誰よ」

うとうとし始めていた私の耳に聞こえてきたチャイム音。居留守を使おうかと思ってやめる。お母さんが『たぶん宅急便で荷物が届くと思うから』って言っていたのを思い出したからだ。

重たい身体を起こしてタンスの引き出しからハンコを取り出し、玄関に向かって鍵をがチャリと開けた。

「どちら様で…」

「「「こんにちはー!!!」」」

ドアを開けた先にいたのは、にこにこと微笑んでいる子供達(1人は苦笑している)がいた。彼らは私の友達、蘭の関係で最近仲良くなった。

「どうしたの?」

「えへへっ、前にねーちゃんが遊びにおいでって言ってたから来ちゃった」

元太くんは頭の後ろに手を組んで悪びれもなく言ってのけた。

いや、確かに言ったよ。言ったけどよりによって今日ですか?

ズキリと痛むお腹にそっと手を当てる。でも表情に出すと彼らは心配してしまうから笑ったままだ。

「なまえお姉ちゃんともっと仲良くなりたくて!」

可愛い事を言う歩美ちゃんにきゅんっとしてしまう。

「すみません、迷惑でしたか…?」

光彦くんは眉を下げて私の表情を窺っていた。そんな事ないよ、と頭を振って中に入るように促した。

「「「おじゃましまーす!!」」」

バタバタとなだれ込むようにして彼らは中に入っていった。

「哀ちゃんは一緒じゃないの?」

彼らとは違ってゆっくり中に入る新一、もといコナンくんに話しかける。

「暑いのは苦手だって言って部屋にいるよ」

「そう」

それにしても未だに信じられない。あの名探偵、工藤新一がまさか小学生になっているなんて。

「それよりオメー…」

「コナン!なにやってんだよ!早く来いよ!すげー広いぞ!」

興奮気味の元太くんに手招きされ、コナンくんは『あぁ』とだけ言った。

「相変わらず豪邸だよな」

「いや、あんたんちには負けるわ」

「そうか?」

お父さんは小説家、お母さんは女優というなんとも素敵な家系だ。小さい頃からよくしてもらっている、第二の両親でもある。

「とりあえず早く行かないと元太くんに殴られちゃうよ?」

「分かったよ」

はぁ、と息を吐くコナンくんと共にリビングに行く。子供達はソファーに座ってキョロキョロと部屋を眺めていた。

「今ジュース入れるね。あっ、そうだ。その棚にゲームがあるからやっていいよ」

私の言葉に目を輝かせ、彼らは棚に近づいた。テレビゲームは結構好きだから色々な種類のソフトがある。彼らは口々に何か言いながらゲームを準備していった。



あれからお昼ご飯を作ってあげたり一緒にゲームをして遊んだりしてたおかげで、あっという間に時間が過ぎてしまった。彼らは名残惜しそうに靴を履いている。

「あーあ、もっと遊びたかったなぁ」

「いつでも遊びに来ていいわよ」

いつもなら1人で過ごす週末だが、今日はとても楽しかった。それにみんなのおかげで生理痛も少し紛れたし。

それでもズキズキする生理痛に無意識の内に擦っていた。

「…お前ら、先に帰ってろ」

まだ靴を履いていなかったコナンくんの言葉に、私達は目を丸くする。

「なんだよコナン!お前だけゲームやるつもりか?」

「ちげーよ。ただなまえ…お姉ちゃんに用があるだけだ」

不満げな元太くんにコナンくんはそれだけ言った。しばらくは唇を突き出していた元太くんだったけど、渋々といった様子で頷いて帰っていった。

「ねぇ新一。どうしたの?」

「いいから来い」

彼はみんなが出ていったのを見送ってから私の手を取ってリビングへと向かう。そしてそこに横になるように言うとキッチンの方に行ってしまった。

そこで何かしていると思ったら、トレーにお昼の残りと水、そして薬を持って戻ってきた。

「生理痛、ひどいんだろ?」

「えっ?」

「俺を甘く見んな。昼は薬を飲んでないみたいだし、今痛いんじゃねーか?」

「よく分かったね」

「だから、俺を甘く見んなって言っただろ?」

いいから食え、と彼は温めたオムライスを一口掬って私の口に近付けた。

「重病人みたいな扱いしてない?」

「けど起き上がるのもしんどいだろ?」

「…当たり」

ぱくりと目の前のオムライスを口に入れる。うん、我ながら美味しい。

見事に平らげた私に今度は薬と水を差し出してきた。さすがに水は寝たまま飲めないので少しだけ起き上がり、ごくりと胃におさめた。

「…ありがと」

「いーよ別に。なまえと何年一緒にいると思ってんだ?それより少し寝てろ。そうすりゃ楽になるから」

「…うん」

なんだか新一の声を聞いてたら眠くなってきた。うとうとし始める私の手が優しく握られる。

「俺がいてやるから」

「……うん」

朝は効かなかった薬なのに、新一がいてくれるおかげで痛みがすーっと引いていく。

「…新一」

「ん?」

「大、好き…」

うつらうつらと呟いたこの言葉が彼に届いたか分からない。でも微かに『俺も』って聞こえたのが本当だったらいいな。



私の特効薬

(誰よりもお前を見ているから、どんな些細な事だって気付くんだぜ?)



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