満月の晩
お目当てのものを回収し、離れた公園にハングライダーで降り立った。時間も時間なだけに公園には人影がない。まぁ、だからこの公園を選んだわけだが。
「さて、と」
回収してきた宝石を月に翳してみる。
やっぱり透けねーなぁ。
俺の探しているものと違う。ならばこれは持ち主に返さなければならない。面倒臭いと息を吐いた時だった。
「キ、キッド!!?」
誰かが俺を見つけてしまった。
慌てて振り向くと、そこには同じクラスのなまえがいて、大きく目を見開きながら俺を見ていた。
ここは慌ててはいけない。
心臓を落ち着かせてにっこりと微笑んだ。
「今宵のような美しい満月の下で貴女にお会いできるなど思っていませんでした。こんばんは、麗しいなまえ嬢」
「な、なんで私の名前…」
「さぁ、なぜでしょうか」
なまえは名前を呼ばれて居心地が悪いのか、きょろきょろと忙しなく目を動かしている。
「それにしても、女性の1人歩きは危険ですよ。なぜここにいるんです?」
「…塾の帰りで、ここを通ると近道だから…」
「感心しませんね。ご覧の通りこの時間帯は心許ない外灯と月明かりのみ。貴女のような美しい女性がここを通ると変質者に襲われますよ」
「だ、大丈夫ですっ!私を襲うなんて物好きいませんから!」
…やっぱり分かってないのか。
あまり自分の容姿に無頓着というのも問題があると思う。だから俺は笑みを浮かべながらゆっくりと彼女に近付いた。
「先程から申しているでしょう?貴女は美しい、と」
「そ、そんな事あるわけ…」
「ありますよ」
手を伸ばしてなまえの頬を優しく撫でる。
「貴女に好意を寄せる男は多いでしょうね。妬けてしまいます」
「ああああのっ」
真っ赤な顔をして動揺するなまえが可愛くてクスリと笑ってしまう。
「次のターゲットを決めました」
撫でていた手を滑らせて顎をクイッと持ち上げた。
「次の満月の晩、貴女を頂きに参ります」
「な…っ!」
真っ赤な顔をさらに赤くさせ、彼女はパクパクと口を動かしている。
あぁ、はまってしまったかもしれない。
「さぁ、明るい所までご一緒します」
顎から手を離して彼女の手を優しく握り締めた。
満月の晩
(なまえ嬢。約束通り、今宵貴女を頂きに参りました)
(ば、ばかな事言わないで下さい!)
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