【SS】shackle(鳳瑛一)



左足に感触がある。
素足にそっと指が触れ、腓骨をなぞるように。
チャリ、と微かな音が鳴ったところで、私は口を開く。
「もう、いいですか……?」
長い睫毛の隙間から、チラリと視線が向いた。
「いや……仕上げがまだだ」
そういうと、その掌は私の踵を包み、足を持ち上げた。
チュッ、と爪先に口づけをした。
「!! なにやって……!」
バッと足を引っ込めれば、チャラリ、と華奢な音が響いた。
「今更恥ずかしがることもないだろう?」
私が急に引っ込めたので、空中で残された片手を前に瑛一さんが言う。
私はベッドの上で両膝を自分の身に寄せて、引っ込めた爪先をシーツのシワの中に隠す。
「恥ずかしいというか……そんなところ汚いですよ……瑛一さんがする様な場所じゃない……」
「俺でなければ誰がするんだ」
瑛一さんは目を見開いて、驚いた様に言った。
「そっ、ういう意味じゃなくて……」
「それに、お前の全ては美しいぞ。それこそ爪の先まで、俺を魅了して離さない」
瑛一さんはその美しい口元に綺麗に弧を描いた。
強い視線に一瞬我を奪われた間に、瑛一さんが立ち上がった。
ギシ、と瑛一さんの片膝で、ベッドが沈む。
「ちなみに、キスをする場所にはそれぞれ意味があるとされている」
横髪の下に掌が入り込み、スッと頬を包まれる。
向けられる派手な瞳の引力に視線を縫い止められていると、反対の手が私の二の腕を掴みグッと強く引き寄せた。
距離が一気に縮み、目と鼻の先でその美麗な顔がわらう。
「この世の全ての愛をお前に……名前」
唇と唇が重なる。
深く深く体温を与えるような、力のこもった強さと、皮膚の柔らかさが感覚を狂わせる。
ゆっくり唇が離れた。微かに笑んだ派手な目元が見える。
チュ、と音を立てて額に落とされ、音もせずにゆっくりと瞼に密っする。
頬にも柔らかく触れ、首筋には強く痕さえ残るように。
柔らかな髪が一瞬私の首筋に触れたので、私は考えもなしにその髪に指先で触れた。
顔が上がって、瑛一さんのその瞳が私を射抜くようにジッと見つめた。
ふ、と小さく息が吐かれる。長い睫毛がゆっくりと伏せられた。
私の腕に指が這った。
手首を掴まれると、引き寄せられる。
掌に、唇を押し付けられる感触。
私は眉を歪めて、顔を歪める。
反対の手で、ギュッと自分の胸元を握りしめる。
それを離すと、ゆっくり、ゆっくり、その髪に手を伸ばしながら、顔を寄せた。
音もしない程、微かに唇が合わさる。
「…………」
睫毛の先が触れる程の近さで、その目を見る。
それが語る通りに、私はまた顔を近づけた。
今度はもう少し、緩慢に。
肩を掴まれたと思えば、ギシッと派手な音が響いた。
私はベッドに背中から倒れ込み、息をつく暇もなく合わさる唇には体重が掛かる。
一身に注がれる力も、愛も、退けることをせずに受けていると、離れる時には息も絶え絶えになっている。
唇が離れ、体も離れると、真上から影と共に見下ろされる。
ス、と瑛一さんの掌が私の片足を這った。
軽く掴み、私に膝を立たさせるように動かすと、チャリ、と音が届いた。
「……よく似合っているのが、恐ろしいな」
『恐ろしい』という言葉に似合わぬ、恍惚とした笑みに歪んだ顔を見た。
「……瑛一さんが、選んでくださったんですか」
「ああ、もちろんだ。お前の足首は細く、甲の形も、爪先に至るまでの曲線も美しいからな。必ず似合うと思った」
左足首にはチェーンが一周掛けられている。アンクレットだ。
滴が何かを伝うように、はたまた太陽の輝きのように、連なったチャームが放射状に垂れているデザインだ。
間接照明のみの薄暗い部屋の中でも、時たまキラキラ光る。
瑛一さんの指先が私の足首を撫でる。
アンクレットというのは何だか、足枷を連想してしまって、いけない。
指の動きに、ピクと体を跳ねさせれば、見下ろす顔は不敵に笑んだ。
「……アンクレットって」
誤魔化すように口を開く。
「ん?」
「どういう時に……つけるんですかね……した事ないからわからなくて」
素足の増える夏場につけるのだろうか。
「そうだな、例えば今度事務所のパーティーがあるだろう? その時につけてきて欲しい」
目を見開く。確かにパーティーはドレスアップし足元もよく見えるが……それはまるで。
「あとはそうだな……ベッドの上でもよく似合うんじゃないか? 下着姿にアンクレットというのもイイ。この前お前が着ていた華やかな下着ともよく合うだろう」
「わあーーー!!! それは忘れる約束でしょう!!」
「何故だ? よく似合っていたのにか」
私は頭を抱えて、体ごとシーツに背ける。
チャリ……と音が鳴った。
「だがそうだな……千切れてしまっては困るから、盛り上がる前に外す必要はあるか」
私はシーツの中で目を見開き、ゆっくり顔をそちらへ向ける。
「……千切れる程……」
「愛するつもりだが?」
瑛一さんがわらう。美しい指が、繊細な作りのチェーンを引っ掛け持ち上げている。
「お前は俺がどういう男なのかよく知っているだろう」
指先がチェーンを離すと、その手は私に近づいた。
「俺がどれだけお前を愛しているかも……」
その手は私の頬を手中に収めると、ゆっくり顔を近づけた。
枷など無意味なように思う。
華やかな瞳が私に近づき、妖艶な口元には笑みを携え。
この美しい人に、強く深く愛され、全ての闇を共有したその上で。
貴方から逃れられる人がいるだろうか。
触れた唇を感じ、昂り求める感情のままに口腔を割れば、微かに笑い声が漏れ聞こえた。
唇が離れると、ゆっくり声が降る。
「……外しておくか」
足首に指が触れ、チャリ、と音を奏でた。


『shackle』End /Thank you for reading.
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