主による問い

「まずはオードブルを用意して頂戴」


「かしこまりました、主。しばしお時間を…
それまで、こちらのワインをどうぞ。笹川様は未成年と聞いておりますのでトマトジュースを用意させていただきました
では、失礼します」


コンチータの前にたっぷりとグラスに注がれたワインを置いて、京子の前にはトマトジュースが入ったグラスを置いたメイドは一礼してから奥へと行ってしまった。少し前に召使も奥に引っ込んでしまったので、部屋にいるのは京子とコンチータの二人となる


「新鮮な果汁を含んだジュースよ。喉が渇いているでしょうから飲むといいわ」


「あ、はい…。いただきます……」


喉が渇いていた京子はカラカラになりかけていた喉を潤す為にジュースへと口付ける
口の中に広がる不思議な味に京子はキョトンとしてしまった


「口に合わないのかしら?」


「いえ、あの…不思議な味だなと思ったので」


「新鮮な果汁を搾ったものは飲んだことなかったの?」


「わかりません…」


「あら、そう。……さて、少し質問したいのだけれど…何からしようかしら。…やっぱりコレかしら……
貴女、大切なものはあるの?」


「えっ?」


唐突な質問に京子は目を丸くするがその質問に対する自身の回答を出した


「あります。お兄ちゃん…家族や友達とか……」


「ふふっ、お兄さんがいるのね。会ってみたいわ。きっと貴女に似ているんでしょうねぇ
会えたらいいけど、会えないわね、きっと」


「?」


「こっちの話よ。その大切なものの中に、貴女は入ってないの?」


「私、ですか…?」


「えぇ。人間は誰しも自分が一番可愛いのよ」


「それは……」


「自分のプライド、自分の立場、自分の意思…自分のやりたいこと、知りたいこと、守りたいもの……自分が大切なものはそういうものでしょう?」


「ち、違う……!私は!」


「ごめんなさいね、冗談よ。お兄さんや家族は大切よね。家族が危ない目に遭っていれば助けたくなるでしょうし
友達も一緒にいると時間が楽しくて惜しくもなるわよねぇ」


声を荒げる寸前でコンチータは可笑しそうに笑うのを見て京子は安堵したように胸を撫で下ろす
その時、ワゴンに料理を乗せ運んできた召使が奥から出てくる


「コンチータ様、笹川様。前菜の準備ができました」


「わかったわ。さて、前菜をいただきましょう?」


「あ、はい……」


京子は目の前に置かれていく前菜を呆然と見ながら先ほどのコンチータの問いを頭の隅で反芻していた



「(私達は正しいことをしたの…。きっと、間違ってない)」


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