ねこふんじゃった 「ねこふんじゃったってあるだろ、あれ嫌いなんだよな」 選択授業の音楽の時間が終わり、誰もいなくなった音楽室のピアノの前に腰掛けた木吉がぼそりとこぼした。はあ、と気のない返事をすれば大きな手でたどたどしく嫌いだと言った曲を歌いながら弾き始める。 知っていたようで知らなかった歌詞は思いの外ひどく、確かに猫好きとしては到底許せない内容であったが、所詮童謡は童謡。まごうことなきフィクションであり、嫌いとはっきり言い切れるほどのものではない。それにしても何故こいつは嫌いだと言いつつ、さして嫌いではないオレよりもこの曲に詳しいのか。 「なんで嫌いなんだよ」 ちゃんと歌える上に弾ける癖に。そう問えばどこか遠くを見ながら、だってかわいそうだろうと悲しそうに眉を下げた。その表情に喉の奥がぐっと詰まる。 「……ダアホ。教室帰んぞ」 横から手を伸ばし鍵盤の蓋を占めると、はっとしたようにこちらを見て、おう、といつもの顔で笑った。何を見ていたかなんて、聞きたくもない。 prev / back / next zatsu。 |