黒子のバスケ | ナノ


140字ログ

「日向と食べようと思ってとっておいたんだ」去年の暮れに買った海老煎餅を湯飲みと一緒に座卓におく。日向は薄桃色の煎餅を一枚口に放り込むと盛大に顔を顰め、湿気ってんじゃねーか、とオレの頭を叩いた。見れば期限は今年の三月であった。「すまん…」「お前は何でも大事に仕舞い過ぎなんだよ」


「晩飯何にする?」山のように積まれた白菜を眺めながらカゴを持つ木吉に問う。「なんでもいいぜ」「それが一番困るんだよダアホ」ナスを適当にカゴに放り込みつつ言うと、そうなのかと首を傾げた。焼きナスにする。「あ、醤油ねえ」「ん?あるぞ?」と不思議そうな顔で言う。「こないだ使い切ったろ」


「何でオレが下なんだよ!?」とオレの下でもがきながらパンツ一丁の日向が吠えた。「だって日向可愛いだろ?」「可愛くねえよ!!」お前の方が可愛いだろうがと喚く鳩尾をさわりと指先で撫でると、ひぃっと色気のない声を上げる。冗談みたいに青くなった顔を見て思わず笑みが零れた。「ほら、可愛い」


日向の料理の腕はリコといい勝負だ。それは本人も自覚する所であるらしく、毎度オレの前にはどちらかというと出来のいい方が並ぶ。今日は肉じゃがだ。苦虫を噛み潰したような顔で箸を口に運ぶ日向に美味いよと言えば無理すんなと震えた声。オレは日向が一生懸命作る料理なら何だって美味しいのに。


「順平さんを僕に下さい」と木吉が体育館の床に額を擦り付けた。父親役らしいリコが何処の馬の骨とも云々定番の台詞と共に木吉に飛びかからんと腰を上げ、母親役の伊月が科を作って止めに入る。しかし彼女役の日向は木吉の横に座り羞恥で今にもキレそうで、部員達はそっと手を合わせたのだった。


三十を過ぎて日向は煙草を吸い出した。その姿はとても様になっていて格好いいとは思うのだけれど、キスが煙草の味になるのは辛い。それに。「身体に良くないぞ」咥えていたそれを取り上げ灰皿に押し付ける。「そんなに口寂しいならオレにしないか?」それに日向の唇に一番触れるのは自分が良い。


首筋に押し当てられた銀色が赤く染まってゆくのを鏡ごしに見た。病的にまで白く細い腕が握ったそれをゆるゆると動かすので熱い。ただただ熱い、のになぜか寒い。熱い、寒い。ぱたりと頬に何かが当たった。もう殆ど動けず、目玉だけを動かす。笑顔とも泣き顔ともつかぬ顔で日向がオレを見下ろしていた。


花束を抱えて
独り暮らしの男の部屋には相応しくない花束を抱えた木吉が家に来たのは一時間以上前。出した茶もそのままひたすらにそわそわと落ち着かず何を聞いても生返事。ついに焦れたオレが詰め寄った時、奴は花束を差し出した。「結婚しよう」脳内に溢れた疑問や罵声より先に出たのは涙だった。


こっち見てよ
熱心にジオラマを弄る日向にちょっかいを出し怒られてから早2時間。久しぶりに2人きりになれたのに、彼はすっかりオレの事など忘れてしまったのかこっちを見ようともしない。それが本当に面白くなくて、日向が一息吐いたように伸びをした所を抱き寄せ驚き慌てる耳元に囁く。構って?


入れ替わり
どうしてこうなった。目の前に座っているのはそこまでオレの表情筋は緩むのかという位にやけた顔をした自分。半ば感心しているとオレになった木吉が問う。「オレの顔見てるとドキドキしちまうんだけど、いつもそうか?」頷けるはずもなく悪態をつけば何を察したのか満足そうに笑った。


未練たらしい
未練がない訳じゃない。しかし過ぎてしまった事をグダグダと言い続けるのは男らしくない。たかだか好物の納豆を同居人の大男に食われた位で何だと言うのか。何よりオレの肩に縋って半泣きで謝ってくる木吉がうざい。「……後で買い物行くからな」ぱあと明るくなった表情に溜息が出た。


痛い
ぱあんと小気味良い音を響かせて後頭部に当たったそれは痛いと言うより寧ろ冷たい。何事かと飛んで来た方を振り返れば日向が立っていた。何するんだようとつい情けない声が出てしまったのは先の残骸が背中に入ったせいだ。再び飛んで来た雪玉に応戦すべく、真っ白な絨毯を千切った。


永遠を現実にする人/診断メーカー
とても長く感じられた沈黙の後、先に口を開いたのは日向だった。とは言え何か言葉を言ったわけではなく、ああとかううとか沈黙に耐えかねて思わず発してしまった声という感じであったが。「なあ日向、今の……」もう一回、と言いかけて物凄い形相の日向と目が合う。「言わねえからな」


深夜のコンビニで缶ビールと小さなケーキを買った。降り続く雨を傘で受けながら二人並んで夜道を歩く。家に着く頃にはズボンの裾もスニーカーもすっかり濡れていて、さっさと洗濯籠に放り込んだ。午前0時、開けたビールは生温い。名を呼ばれ顔を上げると唇に何かが触れた。「誕生日おめでとう」


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zatsu。


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