黒子のバスケ | ナノ


花火

「日向君、すごく似合ってるわよその浴衣!」
はいこれ履いていってね、と状況が今ひとつ理解しきれていないオレに雪駄を手渡しながらリコがにっこりと微笑んだ。

花火大会に行こう、と伊月に誘われたのはもう三日も前の話。毎年恒例の大手企業主催の花火大会は、近所の河川敷で行われていて周辺には出店も出、かなりの賑わいを見せる。幼い頃、何度か弟と共に両親に連れられ見に行ったことがあったけれど、ここ何年か全く見に行っていない。特に高校に上がってからは丁度花火大会の日は部の合宿で、その河川敷に出向くこともなくなってしまった。
けれど、今年はどういう訳か、恐らく合宿所を借りる日程の都合だろうが花火大会と合宿の日が被らなかったのである。その上、丁度オフの日とも重なり、さてどうやって過ごそうかと考えているところに伊月に誘われたのだ。
二つ返事でオーケーを出して三日後の夕方、リコに突然呼び出されたオレは、いつの間にか浴衣を着せられそろそろ待ち合わせの時間だからと玄関の外へと押し出された。最初から最後まで聞きたいことだらけのオレは完全に置いてきぼり。頭の中の疑問符が全て出尽くす頃には伊月の指定した場所に着いていた。どうやら伊月はまだ来ていないらしく、オレは近くの壁にもたれて溜め息をつく。正直、先の出来事と慣れない格好に既に疲れていた。リコに送り出される時、高校最後の夏休みだから楽しんできなさい、と力一杯叩かれた背中がじんじんと未だに痺れて痛い。
なぜこんな事にともう一度溜め息をついた時、少し遠くから名前を呼ばれ顔を上げた。


痛みも疲れもキレイに吹き飛ぶまで、もうあと少し。

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zatsu。


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