黒子のバスケ | ナノ


雨に濡れて

 大きな雨粒が濃紺の傘にあたりバラバラと音を立てるのを聞きながら、かれこれ一週間は雨雲に覆われた空以外を見ていないなと日向は思った。今朝見た天気予報では気象予報士のお姉さんが今日あたり久しぶりの青空が見えそうです、といつもの笑顔で言っていたのだけれど、どうやらそれは外れてしまったようで今日一日空はどんよりと灰色だった。
 特に天気にこだわる方ではないが、こうも毎日薄暗いと気分までどこか暗くなってしまう。だから明日こそは少しでいいから晴れてくれないだろうか。
 そんなことを考えながら一つ溜息を吐いた日向に、隣を歩いていた伊月が怪訝そうに首を傾げた。
「どうしたんだ、突然溜息なんか吐いて?」
「んー……いつまでこの雨続くのかなーって思ってさ」
 今日予報だと晴れだったじゃん、と日向はうんざりとした顔で伊月を見た。けれど伊月はなんだそんなことか、とあっけらかんとした調子で言った。
「梅雨なんて毎年来るんだから、諦めなよ」
 こればかりはどうにもならない、というのは日向にもよくわかっていたし、こうして日本という国に住んでいる以上、梅雨とは一生付き合っていかなくてはならないのだ。生を受けて十七年この土地で過ごしてきた日向にとってそれは盆暮れ正月のような年中行事とさして変わらない。しかし、ものには限度というものがあり、いくら毎年のように梅雨がやって来るからといって、こうも毎日雨に降られれば嫌になってくるだろう。
「伊月は毎日雨で嫌じゃないのかよ」
「うーん、まあ、確かに嫌だけどさ」
「なんだよそのやけに歯切れの悪い返事は」
 返答が気に入らなかったのか眉間に皺を寄せる日向に、伊月は困ったように笑う。
「確かに毎日雨なのは嫌だけど、こうして日向と二人で雨の中を帰るのも悪くないかなーって思ってたから、ね」
 そう言って傘を持ち替え、日向の手を握った。おい、と慌てて周囲を確認しようとする彼を制して、伊月はニコリと笑った。
「大丈夫、誰もいないよ。雨が降ってると人通りも少なくなるし」
「それは、そうだけど……」
「日向はオレの目、信じられない?」
「うっ……いや……」
「ふふっ、よろしい」
 傘から少しはみ出してしまっている手が冷たい雨に濡れていたけれど、日向は分かれ道まで繋いだ手を自分から離すことはなかった。


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zatsu。


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