──XX年八月某日、



今から三年前。
熱い日差しがアスファルトを刺す夏休みのその日。
閑静な住宅街で事件は起こった。


最初にこの事件は夕方のローカル番組で住宅街での火災のニュースとして報道された。

火災発生現場は地方都市のとある住宅街の一角。
その中央よりやや北側に位置するある二階建ての一軒家がほぼ全焼。
焼け跡からは住人と思われる四体の遺体が発見された。
後の検証から遺体は火災が発生した家屋の家主である大学教授の男性、その長男の大学病院勤務の医師、大学三年生の次男、高校三年生の次女であることが判明。

当初この出来事は、平穏な家庭を襲った痛ましい“事故”として報道された。


しかし事態は数時間も経たずに一変する。


火災発生当時、家に居たのは焼死した四人以外にも二人、計六人。
二人とは警視庁に勤務する長女と中学二年生の四男。
高校二年生の三男以外は全員が家に居たことになる。

火災の通報者は長女。
彼女に軽度の火傷以外の目立った外傷はなかった。
だが四男は救急隊員が駆け付けた時には既に意識不明の重体だったという。

これが火災によって陥った事態だったならば、少なくとも現場検証までは“事故”であったかもしれない。


しかし四男は胸部から腹部にかけて深い切傷を負っていた。


不審な四男の受傷はすぐに一部で報道された。
また、火災が発生した家屋が国立の大学教授と現役の警察官、それもキャリア組と称される人物の住居であることが憶測を呼び、
二、三日経つ頃には一部の報道ではこの火災は“事故”から“事件”へと変化しつつあった。



それを決定づけたのは火災現場の現場検証。

警察と消防の検証の結果、火災は放火と発表された。
発火元は一階のリビングで発見された大学教授の男性。


つまり『人』だった。


そして四体の遺体すべてにおいて致命傷と思われる深い刺傷と無数の切傷が確認された。

ただの火災は一週間も経たないうちに放火殺人になった。



『喜多見川区一家放火殺人事件』

『死亡:
 春日昂太郎(カスガコウタロウ)(56)
 春日戒人(カスガカイト)(28)
 春日玲児(カスガレイジ)(21)
 春日律(カスガリツ)(18)』



それは三年前の八月五日。

十四歳だった春日司は深い傷を負い、家を無くし、そして家族を失った。



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