少年は一歩後ずさりながら、無理やり笑みを浮かべる。
「はは、馬鹿言うなよ。オレが入るのと同時に入っただって?ふざけるのも大概にしろ!」
しかし男性に焦った様子は全くない。
壊れかけた木製のテーブルに肘をつき、手のひらに頭を乗せながら未だ出入り口に突っ立ったままの少年を面白そうに見ている。
「ふざけてなんかいないさ。ボクは君と同時にこの小屋に入った。ただそれだけのことさ。何もおかしなことはないだろう?」
少年はぽかんとした顔で男性を見つめる。
混乱しているせいで、頭がよく働いていないのかもしれない。
少年はブンブンと頭を振り怒鳴った。
「もういい!そんなことオレにはどうだっていい!とにかくオレにはまだやることがある。何も用がないなら、さっさと出て行け!」
しかし男性は焦る様子もその場を立ち去る様子もなく、頬杖をついたまま微笑を浮かべる。
「用か…。そうだな、それじゃあ君の話を聞かせてもらおう」
「は?」
少年は思わず聞き返してしまった。
予想外の言葉に一瞬思考が停止するが、すぐに我に返り扉を指差して言った。
「ふざけるな!オレはお前なんかに何も話すことはない。邪魔だからさっさと出て行けよ!」
しかし男性は全く動く気配がなかった。
どんなに脅そうが怒鳴りつけようが、ただ変わらぬ微笑を浮かべながら少年を眺めているばかり。
とうとう少年は疲れて扉にもたれ掛かったまま座り込んだ。
そんな少年を見つめながら、男性は頬杖をついていない方の手で空いている椅子を示して言った。
「さあ、疲れたのならそこに座ればいい。…君がどうしても話したくないと言うのなら無理に聞こうとは思わないが、君が話したいと言うのならボクはいつでも君の話を聞こう」
「……」
少年は少し迷った末、よろよろと立ち上がり男性が示した椅子に腰かけた。