意味なしエマ話


 格子のついた窓の向こうから射し込む月明かりをぼうっと見ていた。
 大抵のことはやってきた。幸い、殺人と薬には関わっていないが、それだけでは清廉とは言えまい。
 知らず、溜息が出た。
 眠れない夜には慣れている。休む間のない夜はいくつもあった。
 ここは平穏すぎる。それに文句があるわけではないが。
 ふいに靴音が響いてきた。
 見回りの時間か。この足音はあの看守に違いない。
 眼を閉じ、耳をすます。音はゆっくりと近づき、同じ速度で遠ざかった。
 まるでメトロノームのようだ。
 ほんの少し眠気が引き出される。ようやく眠れそうだ。
 明日、礼を言ってみよう。あの無愛想な看守に。







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