「いやぁそれにしても睦弥の信頼の無さにお父さん泣いちゃうかと思った」
「はぁ?」
「お父さんが息子の同級生に手を出すような外道だと本気で信じちゃったでしょ」
「そこは疑う余地がなかった」
「ええぇ!?」
父親と槙本さんの声が重なった。
「月乃ちゃぁん」
「えぇい触るな!!」
泣き真似しながら槙本さんに擦り寄ろうとした父親を蹴飛ばす。
おろおろする彼女を背に追いやって、俺が壁になるようにした。
「で? どういう意味。結局何で槙本さんが親父と一緒にいんだよ」
「早い話が、月乃ちゃんの親戚の方に不幸があって、お母さんが実家に帰ってるからその間月乃ちゃんを預かる事になったんだよ」
「すっげぇスピード解決」
探偵いらずだわ、マジ。
最初っからそう言えこのジジイが。
槙本さんの方を見ると、申し訳なさそうに笑っていた。
話合わせろとか言われてたんだろうな、可哀そうに。
でもどうしてウチ?
槙本さんとことの交流なんてなかったはずだ。
「今まで黙ってたけど、月乃ちゃんのお母さんとお父さん仲良いんだよね。もう再婚しちゃおうかってくらい」
「……え?」
「子供たちの事を考えたらどうなんだろうって悩んだよ。でもこそこそしてる方が悪い噂が立つっていうか、世間体的にも宜しくないんじゃないかって」
「ちょっと待て、話が急展開過ぎて何が何やら」
「うん、だから再婚するのも月乃ちゃんが家族になるのも本当って話」
「はああぁぁぁ!?」
何その二段階にも及ぶ仕掛け。
しかも分かる。酷くて笑えない冗談の後に持ってきたのは、嘘じゃないって。
軽いノリで言ってるけど、紛うことなき事実だって。
「待て待て待て。ウェイト!」
ははは、相当混乱してるわぁ。なんて父親の阿呆なんて知らん。
「……マジで言ってんの? は? 何でんな大事なこと今まで黙ってたんだ」
「言ってたよ。月乃ちゃんには」
「だから俺に黙ってた理由を言えつってんだクソが!」
「睦弥くんお口悪ーい」
入れ歯のおじいちゃんの口が臭いみたいな言い方すんな。
取り敢えず殴っておく。
親に向かって何て事をっていう非難を甘んじて受けたって構わない。
「言っちゃ悪いけど、槙本さんのお母さんはこれのどこがお気に召したわけ? 騙されてんじゃね、ちょっと考え直した方がいいと思う」
「そー……それはこっちこそ、というか。ウチの母親の方が、再婚なんかして貰っていいのかなって」
どんな!?
槙本さんのお母さんってどんな!?
謙遜してるとか気を使ってるとかじゃなくて、本気で心配してる言い方だ。
「月乃ちゃんのお母さんはとってもワイルドで刺激的な魅力ある女性だよ」
「実物を8割美化すると、そんな言い方も出来るんでしょうけど」
こえぇよ!! 俺ん中のお母さん像とんでもねぇ事になってるよ今!!
「いやぁ楽しい家庭が築けそうだなー、今からウキワクしちゃうよねぇー」
「うきわくって何だよ。つーかまだ信じらんねぇ、なにこの展開」
性質が悪すぎる。
ありえないだろこんな。
「有里くん……」
現実を受け入れられないでいる俺に、俺と全く同じ状況に置かれたはずの槙本さんが気遣わしげに呼んだ。
ああ、全く。性質が悪すぎる。
同級生とある日突然兄弟になるなんて。
しかもその相手がちょっと気になってた子だとか。
こんな良くも悪くも出来過ぎなこと、テレビや漫画でだってあるか?
「あー、これから、よろしく。月乃ちゃん」
「よ、よろしく。……睦弥くん」
家族になるわけだから。
恥ずかしそうに俺の真似してくれた月乃ちゃんに、少しだけ気分を浮上させる。
もういい。
親が勝手にするなら、俺だってさせてもらう。
せいぜいこの非常識な現実を充実させてやらぁ。
父親が視界の隅でにやにやしてるのなんて知るか!
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