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「んー……、あ、おかえりなさい……」

 起きた侑莉が目を擦りながら間の抜けた寝ぼけ声で言った。

「くそっ、何っでいるんだよ。出てけっつっただろうが」
「いえ、出て行こうとは思ったんですけど鍵が……」

 そこまで言うと、凌は舌打ちをした。当然だが合鍵も何も持たされていない侑莉が出て行けば、凌が帰ってくるまでドアの鍵が開きっぱなしになってしまう。

 だからこうしてずっと待っていたのだ。

「で、エアコンもつけずこんなサウナみたいな中でずっといたのか」
「勝手に使うのは悪いと思って。また汗かいちゃいました」

 あはは、と笑いながら胸元を掴んでパタパタと仰ぐ。

「アホか。もっと他に悪いと思う場面があっただろうが」
「す、すみません……。あの、あなたも帰ってきたので私はそろそろ出て行きますね。本当にご迷惑をおかけしました」

 ペコリと頭を下げて立ち上がった侑莉に何の気なしに言葉を投げかけた。

「もう終電行ったと思うけど?」
「しゅ……今何時ですか!?」

 男が無言で壁に掛かった時計を指差し、それを見た侑莉は愕然とした。
 丸半日以上も寝ていたらしい。

「お腹が空いたと思ったぁ」
「何も食ってないのか。若いな」
「いや、それあんまり関係ないかと」
「それで、昨日行くところ無いって言ってたけど、どこに帰るんだ?」
「え? えー、えー……」

 突然話が切り替わった事について行けず、何故かしどろもどろになる侑莉。
 その様子を見て凌は溜息を漏らし、さっきの友人の言葉を思い出した。

『面白い事になってんなぁ』

 コイツがいたらもしかしたら面白くなるだろうか?

 面倒事も、退屈よりはいいかもしれない。

「行くとこないなら暫くここにいるか?」
「へ? あの、でも……」
「出て行くか、いるか今すぐ決めろ。三、二、一」
「え、あ、不束者ですがよろしくお願いします!」

 凌が急かしたせいで、自分でも何を言っているのか理解していないまま早口で言って頭を下げた。

「何だそりゃ。いるって事だな?」
「はい、ご迷惑でなければ……」
「かなり迷惑だけど。まぁ生活に変化持たせるのにちょうどいいだろ」

 そんな理由でここに置かれるのかとも思ったが、いさせてもらえるならこれほど有難いことは無い。
 そう考え直して「ありがとうございます」ともう一度頭を下げた。

「あ、名前! 私は……侑莉です」
「香坂 凌」

 こうして侑莉の父親に対する反抗心と、凌の軽い考えから始まった共同生活はこれから暫く続く





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