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「ちょっとはマシになった、か?」
「自分ではそう思ってるんですけど……」

 主語の無い会話だが、二人はそれで通じている。
 夏バテに精神的な弱まりが加わって、全く食事を取ろうとしなかった侑莉はかなり痩せてしまっていた。

 「台風が来たら飛ばされそうだな」と頼に笑われたり、凌には「手羽先みたいだ」と酷評を受け、侑莉は一人落ち込んだ。

 最近になって少しずつ回復した食欲と共に、身体つきも随分元に戻ったと本人は思っているが、凌からすると変化はあまり見られないらしい。

 たまに触れては首を捻っている。

 ここのところ凌は侑莉の体調管理に熱心で、一日に一回は侑莉の額に手を当てられて熱を測り、一緒にいるときは食事をきっちりと取らせる。

 今度こそへばって倒れられでもしたら面倒だと本人は言うが、それにしたってこんなにも甲斐甲斐しく世話を焼いたりする人だったろうかと、驚きを隠せない。

 きっと瑞貴が見たら顎が外れるほど驚愕するのに違いない。

「バイトは何時までだ」
「えーと、今日は五時です」
「用事は」

 侑莉は首を横に振った。
 唯一の連絡を取る手段だった自分の携帯電話を壊してしまい、友達と音信不通になっている今、用事らしい用事などアルバイトくらいしかない。

「ならご飯でも食べに行くか」
「……え?」

 聞き返すと凌はギロリと睨んだ。
 反射的に身構えそうになったのをなんとかやり過ごして、侑莉は凌を窺い見た。

「どこか連れてってくれるんですか?」
「たまには違うところで自分以外の奴が作ったもんの方が食べられるだろ」

 思わぬ提案に侑莉は目を丸くした。

 凌にしてみれば、別に侑莉に気を遣ったわけではないかもしれないが、そんな風に考えてくれていたなんてと顔が自然と綻ぶ。

「楽しみです」
「高いもんは無理だぞ」
「私はなんでも」

 食事の内容よりも、一緒に出掛けるという事が侑莉には嬉しい。

 凌は以前のように日付が変わる頃に仕事が終わるような事は無くなったが、毎日帰って来る時間がまちまちなのは相変わらずで、侑莉のバイトの都合を合わせるのも難しい。
 だから家で一緒にいる時間は増えたが、二人で出掛けるのは盆休み以来になる。

 今日は絶対に早く上がれる確証でもあるのか、凌は「さっさと帰って来いよ」と侑莉に釘を刺した。





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