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 男の部屋は角部屋だった。
 靴を脱いで上がると、十分すぎるほど広い2LDKで、必要なものしか置かれていない簡素さが更に部屋を広く見せている。
 物珍しそうに部屋中を観察しているうちに男は寝室へ行って取ってきた服を押し付けるようにして渡し、もう一つの部屋に侑莉を入れた。

 ベッド以外は何も置かれていない少し小さめの部屋だった。
 普段は使っていないらしく、布団さえもない。

「クローゼットん中に何かある。風呂に入りたいなら勝手に入れ。但し俺が入った後でな」
「あ……はい、ありがとう、ございます……」

 自分が無理やりに頼んだ事なのに、普通では考えられない事態に頭がついていかず、生返事をする侑莉を無表情に眺めて男は溜息を吐いた。

「朝早くからコキ使ってくれるウチの会社に感謝するんだな」
「へ?」
「今晩だけだ、明日中には出てけ」

 言いたい事を言って男はドアを閉めた。そのドアを侑莉はしばらく呆然と眺めていた。
 男が出て行ってしまうと部屋はしんと静まり返っている。
 侑莉はこの部屋唯一の家具であるベッドに腰掛けた。

 何をやっているんだろう。
 知らない人に思い切り嫌な顔をされて迷惑をかけて
 家にまで上がりこんで……

 それが良い事か悪い事かは別として、普段の侑莉からは想像も出来ないほどの行動力だ。
 いつもは他人に自分の都合を押し付ける事などほとんどしない。

 だけど、そんな侑莉が迷惑を省みずに赤の他人の家に上がりこもうとするくらいに、父親の元になど帰りたくなかったのだ。今はまだ顔も見たくない。

 車を見たとき、恋人らしき人と一緒にいれば父親もこれ以上何も余計な事はしてこないだろうと考えた。
 事実追ってくる様子は無かった。
 逆に怒り出して車に引きずりこまれるかとも思ったが、父でもそこまではさすがに出来なかったらしい。

 何かと侑莉の行動に口出しをしてくる父親だったが、今回ばかりは度が過ぎて、本気で人を叩きたいという衝動に駆られたのは初めてだというほどに怒りが沸いてきて、今もまだ治まらない。


 ほとぼりが冷めるまではどこかで匿ってもらおう。
 誰に?
 友達の家だときっと連れ戻されるかもしれない。
 どこかいい所はないだろうか?

 考えても答えは出ず、いつの間にか侑莉は眠りに落ちていた。




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